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ふるっぴ@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) もうすぐ2016年の夏です。みんな元気…
ヤンスカ@ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) furuさん ふるっぴ、お久しぶりです! よ…
ヤンスカ@ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) gate*M handmadeさん うお~!お久しぶり…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) 勝手に匿名コメントを残し、怪訝にさせて…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) やっぱり元気やったな!? 良かった。

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2012.12.22
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カテゴリ:カテゴリ未分類
ヤンスカ様は、手錠をつけたまま、着替えを済ませ、マルセルの話を始めた。
「エレノア、言っておきますけどね、彼は素敵なかたよ。どうか盗らないでね」

私の中では、「あれは錯覚だった」というオーナーの言葉がリフレインしている。

ヤンスカ様をはじめて抱きしめた夜明けのこと、
私を追いかけて来てくださった公園で、雷を怖がったあの方と寄り添った午後のこと、
どちらも、はっきりと、好きだとは確かに口にしていないが、
確かに、そこにあった感情は、恋の始まりではなかったのか?

カーステアーズ、しっかりしろ!
勘違いだったらしいぞ。
だけど、あまりにも、心にささったトゲが深く深く入り込みすぎて、
私はうかつにも表情に出してしまったらしい。

「ウィル。女って怖いでしょう?ふふっ」

かわうそは、泣きじゃくっている。私の代わりに。

「さあ、着いたわよエレノア。まあ!マルセルが待っているわあ」
ヤンスカ様はウキウキと出口へと向かう。

「カーステアーズ、ドアを開けて頂戴。で、あなたはここで待っていてね」
「ヤンスカ様!それはいたしかねます。私もご一緒いたします」
「野暮な男ね、ウィル。もうここまで来たら、私だって変なマネはしないわ」


黒のタキシードに身を包んだマルセルが、
ステップのところまでやってきて、わがオーナーの手をとろうとするが
「どうなさったのです、マダム・ヤンスカ。あなたの片手はすでにどなたかと
 つながれているではないですか」と柔らかな口調で問いかける。

「おや、こちらのご婦人は?」
「マルセル、今日はお招きいただいてありがとう。こちらはエレノア。ちょっとね、
 会いたい方がいらっしゃるからという事で、一緒にいらっしたのよ」
「なるほど、先日お問い合わせいただいた方ですね。ようこそ、エレノア。
 マダム・ヤンスカのお客様なら、私のお客様でもいらっしゃいますよ。
 どうぞ、中へ」

「エレノア、今日は喫茶はお休みをしているんです。
 しかし、事情がおありならば、このマルセルにお聞かせいただけませんか?
 おっと、その前に、手錠は外していただきましょうね」

「じゃあ、マダム・ヤンスカ。あちらでミモザでも楽しんでいらっしゃい。
 カーステアーズには、そうですね、彼はお堅いから、決してお飲みにならないでしょう。
 コーヒーをお出しするように言いつけましょう」


前に、テッチャマとお会いになった、懐かしいテラスで、
ヤンスカ様は、カクテルを飲みながら、時折物思いにふけっている。
「あの日の事を、思い出していらっしゃるのですか?」
ハッとして、こちらを見、
「あの茂みから、カーステアーズが飛び出してきたのよね」と顔をかしげておっしゃる。
「マルセル様とは、うまく進展なさるとよろしいですね」
「……」ヤンスカ様は、何も返さない。


その時。
銃声が起こった。
私はとっさにヤンスカ様をひっぱり、物陰に彼女をおしこめて、
庇うように構えた。

「チクショウ!騙したわねっ、ウィル、出てきなさい」

「行ってはダメよ、カーステアーズ」
小さな声でヤンスカ様が訴える。

何が起こったのだ?
エレノアが怒り、罵りながら、私を探している。
そして、マルセルと、男たちが追いかけて来て、エレノアに停まれと声をかける。

あ!いけない、マルセルが危ない!
私が立ち上がったのと、マルセルに向けられた銃が音をたてたのは同時だった。
ヤンスカ様は、目をつぶって地面に伏せている。

「うそ!うそでしょ~!」というエレノアの声と、悲鳴。
そして、信じられない事だが、無傷のマルセルが笑いながら立ち上がった。

私は、薄れゆく意識を感じながらも、ヤンスカ様の声を聞いた気がした。




「よかった。気がついたようですね」とマルセルが私を見おろす。
「カーステアーズ、ごめんなさい」とヤンスカ様の声も聞こえる。

「私は気を失っていたのでしょうか?」
「無理もないことです。カーステアーズさん。あなたのおかげで、国際的指名手配犯を捕まえる
 ことができましたが、あなたに秘密で進めてしまったことを謝らなくてはいけませんね」
「エレノアが何を?」
「彼女とその愛人は、詐欺や強盗で蓄えた財産を隠し持っていたのですよ。
 もっとも、愛人の男は彼女に黙って半分以上を持ち逃げしてね、
 運悪く殺されてしまった。エレノアは、何とか死んだ男から
 財産のありかを訊きだそうと必死だったんですよ」

それで、冥土喫茶に…。

「マダム・ヤンスカからお伺いしましたよ。貴方の昔の恋人なんだそうですね。
 さぞやショックでしょう」
「すまない。私には、まだよくこの話が呑み込めていないんだ」

ヤンスカ様が、私をのぞきこんでおっしゃった。
「カーステアーズ。マルセルはね、こういう特殊な場所にいらっしゃるじゃない、
 よく、警察に協力なさるんですって。今回も、エレノアをおびきよせるために、
 冥土喫茶の話を広めて、マルセルに辿り着かせたの。そして私の列車でないとここには
 くることが出来ないと情報を吹き込んで、あなたの連絡先を教えたってわけよ」

「では、ヤンスカ様は最初からこれが仕掛けられたものだとご存じだったのですか?」

「マダムを責めないで。うまくいったから良かったものの、万一失敗したら、
 マダムの命だって危なかったのですから。
 エレノアには、私とヤンスカ様がちょうど食事を共にするので、運がよければ乗せてもらえる のではないかと知恵をつけておいたのですよ」

「まさかね、カーステアーズがエレノアの頼みを断るなんて思わなかったのよ」
「確かに、トレインジャックとは、予想外の展開になりましたね」
「まったくね、エレノアったら私をバカ女だなんて!」


いやいや、ヤンスカ様、怒るところはそこじゃないだろう。
しかし、私は、おとりだったという事か。
て、事は、マルセルとヤンスカ様のディナーデートも、作戦ということなんだろうか?

考えたタイミングで、マルセルが私を見て、ニッと微笑み言った。
「せっかくだから、お食事をなさってくださいよ、マダム、カーステアーズ。
 作戦のためとはいえ、なかなかのメニューをご用意したのですから。
 では、私は先に行ってますよ、ごゆっくり準備なさい」


二人きりになった部屋で、私は自分の心臓の音がやけに大きい気がして
恥ずかしくなった。

エレノア…。
私は、心の小部屋にかけてあった彼女の肖像画を外した。
燃えるような赤毛と、緑の瞳。
あんな女性だが、私は確かに彼女を心から愛したのだ。


「カーステアーズ…エレノアのことを考えていたのでしょう」
「あなた様はひどい方だ。どうして作戦を私に打ち明けてくださらなかったのです?」
「だって、カーステアーズ。あなたは、あまりにも、そのフリと言うのか、
 演技が下手なんですもの。思っていることがすぐに態度に出るじゃないの。
 だから、申し訳ないのだけれど、あなたごと騙すことに決めたのよ」


エレノア、マイアミの空港で、君と落ち合った時の喜び。
幸せな未来のことしか頭になかったのだよ。
君の笑顔、涙、全てを私は愛していたのだ。


「なぜ、すんなりとエレノアの願いをきかなかったの?」
「それは、もちろん、あなた様にご迷惑をおかけしたくなかったからです」
「私は、あなたが封筒の中身を聞かせてくれるかしらと思っていたのに、
 自分の部屋からとうとう出てこなかったわね」
「ヤンスカ様!あなたは意地が悪い!マルセルとのデートを心待ちにされていらっしゃった
 ではないですか」


エレノア、サロンカーでヤンスカ様と一緒にいる君を見て、
私がどれほどショックを受けたかわからないだろう。
君の変貌、いや本当の姿を見てしまったこともだが、
昔愛した女が、今、私の大切な方の命を脅かしているということにだよ。


「カーステアーズ、あなたはバカよ、バカ男!エレノアがあなたをたらしこみやすいように
 私が小芝居を打っていたことも通じないなんて」
「バカ男だなんて、失礼な!私の目には、あなた様がマルセルに夢中でいらっしゃるようにしか
 見えませんでしたがね」
「かわうそが、途中であんな事を言い出した時には、しまったと思ったのよ」
「どうしてですか?」
「だって、私たちが仲がいいなんてエレノアが知ったら、
 嫉妬して、あなたに危害を加えるかもしれなかったでしょう?」


私は、心を覆っていた殻が、パリパリと音をたてて崩れていくのを確かめた。

「では、ヤンスカ様、私とあなた様は、かわうその言うところの、好きなもん同士
 なのですね」
「カーステアーズ…」

ヤンスカ様が、私をまっすぐな目で見つめている。
「ええ、錯覚だなんて、うそよ。ずっと、どうしたらいいのかわからなかったわ。
 自分の気持ちの正体がなんなのか、答えを出すのも怖かったから」

「私を、どうぞ、もっと好きになってはいただけませんか?今すぐでなくていい、
 いつか、気づいたら私を愛するようになっていたというぐらい、ゆっくりでいいので」

ああ、言ってしまった。

ヤンスカ様が、私の腕の中に飛び込んできた。
私は、心をこめて、大切な人を抱きしめる。
そして、私たちは、やっと、思う存分にお互いを見つめ合う。
さあ、がんばれ私。このままひといきに…。


エレノア。さようなら、君は狂ってる。
マルセルに向かって銃を撃った時、信じられない思いだった。

いや、待て。なんかすごく大事なことを忘れていないか、私?
マルセルに撃って、倒れたのに、なななな、なんで、彼は無傷で立ち上がったのだ?
その光景が異様だったから私は倒れたのではないのか?

「カーステアーズ?」
どうしたのという表情で、ヤンスカ様が私を見上げている。
「ああ、申し訳ありません」
「やめてよ、そんな口調で言われたら、笑ってしまうわ。ねえ、どうしたの?変よ」
「あの、不思議に思ったことがあるんですが」

私たちは、身体を離して、
いつの間にかご主人様と、いつものカーステアーズの距離に戻っている。

「なんなの?言ってごらんなさい」
「マルセルは、確か、エレノアに銃撃されたはずでした。間違いない!
 私はこの目で見たのです。
 でも、どうして、ケガひとつなさっていらっしゃらないのでしょうか?」

ヤンスカ様は、面白そうに笑って答えてくれた。
「カーステアーズ、あの方はね、冥土喫茶の管理人よ。
 もうこの世の身体ではないから、傷つくことも、亡くなることもないのですって」

ゾンビということなのか!
このような場所で、冥土のものを口にしたならば、何が起こるかわからないではないか?
「いけません、ヤンスカ様。ディナーはお断りして、すぐに帰りましょう」
「あら、私はさっきカクテルをいただいてしまったわ。あなたもいたじゃない」
「ああ、何ということ!私は考え事で頭がいっぱいでした」

屋敷のどこかで、食事の準備が整ったと言うベルの音が鳴っている。
「さあ、行きましょ。私をエスコートして頂戴」
私は、これまでもそうしてきたように、腕を差し出すと、
今までとは違う力の加減で、彼女が手をかけてきた。
その指の温もりは、初めて感じるものである。

「ねえ、カーステアーズ。毒を食らわばって言葉があるでしょう」
「はい、存じております」
「私ともっと仲良くなるということは、そういうことよ」
「承知いたしておりますよ」
「これからは、あなたと、もっと色んな冒険ができるのよね」
「光栄に存じます」

そして、大変洗練されたマルセルの屋敷のダイニングルームからは、
弦楽四重奏によるクリスマスソングが聴こえてくる。
隣を歩く人の、横顔を確かめる。
微笑みを返してくれる私の恋人。
不覚にも、目がうるみそうになって、私は正面を見る。
そうだ、これからは公私にわたって、この方を守るのだ。


(全三話 完)





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Last updated  2012.12.23 00:08:52
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