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HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

中山星香

中山星香

祝!第50巻『妖精国の騎士』
父を倒す?アーサー『妖精国の騎士』第53巻
魔法学園モノ『7番目の少年』
妖精国の騎士つづき『ロビン』
星香流、魔法使いの弟子――『ロビン』2巻
『ロビン』、3巻で完結、いちおう?

妖精国第50巻

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祝!第50巻『妖精国の騎士』 (2005.6)

 超大作、と呼んでもいいでしょう、もう50巻ですから。
 中山星香さん自身がいつも書いているように、「ノンストップ」で、この長さはすごいです。

 本格的異世界ファンタジーをここまで長く、広く、深く楽しめるとは、私のようなファンタジー好きには、ほんとにありがたいことです。

 そろそろラストかなあと思わせながら、どっこいまだまだ続く。さすがにちょっと読み手としては息切れしてきましたけど。

 作者は長年の構想と思いのたけを、たっぷりとつぎ込んでいるのでしょうけれど、物語のまとまりという点からいうと、ちょっと問題かもしれません。
 とらえられる主人公ローゼリイ、苦戦する彼女の同胞、権力闘争のニブルヘル、という図式で、ふつうの物語ならクライマックス級の緊張感が、これでもかー、これでもかーと続いて、もう若くない読者(=私)は、疲労困憊。

 永遠に続いてほしい気もするけど、そろそろ終わってほしい気もする、超大作です。
 
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妖精国の騎士(53)
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父を倒す?アーサー『妖精国の騎士』第53巻 (2006.9)

 やっとラストが見えてきた感じの中山星香の超長編ファンタジー。
 ここ十数年は「プリンセス」誌の連載をまったく読んでいない上、新巻がいつ発売されるかもチェックしていなくて。先日杏子さまのブログで拝見して53巻が出ているのを知り、慌てて買いました。

 主人公3人と、彼らを取り巻く仲間たちがほとんど十代の若者だからかもしれませんが、この大河ファンタジーは、彼らの現在の戦いや愛憎だけでなく、その前の世代からの争いや愛憎が物語の基礎設定をなし、からみあい、影響しあい、増幅し変化して、ドラマを動かす原動力になっています。
 完全な異世界ファンタジーでありながら、過去や親の代のしがらみが「運命」となって主人公たちを翻弄する、その人間くささが、物語を重厚でなまなましいものにしていると思います。

 たとえば、ロリマーの王女シェンドラ。彼女は主人公の一人ローラント王子を愛していますが、彼女の両親はローラントの両親を裏切って死に追いやりました。非道すぎる冷酷な政治家としての母親を憎みつつ、その母とどこか性質の似ている自分を知り、苦悩するシェンドラは、母の呪縛にとらわれつづけて、なかなか素直になれません(52巻)。

 それから、冥府の闇の神々の壮絶な権力争いでも、闇の神王とその長子、蛇王妃とその一族の兄妹などの愛憎が複雑にからみあっています。そして、53巻では人間の主人公たちの愛憎劇に先立って、冥府では闇の長子が父を倒し、権力の座を奪います。
 すさまじい血族の争いだなあと思いますが、古代社会や神話での王権交代は、若い英雄が父(実父でなくても)である老王を倒すことでしたし、心理学の世界では「父親殺し」は若者が一人前になるための一種のイニシエイションなのでした。

 だからこそ、主人公の一人アーサー王子も、ついに専制君主である実父のグラーン王と一騎打ちに。なるほどアーサーは生まれてすぐ実父のもとから離され、ずっと父を敵として見てきましたが、さて本当に実の父を刃にかけるのでしょうか。
 いかにグラーン王が武力にまかせて近隣に版図を広げた征王であれ、彼は邪悪な闇の神でもなく、アーサーと同じ人間で(この父子は魔法さえ使えない)、冷酷だが筋を通すあっぱれな強者として描かれています。しかも、アーサーは父の人間としての、満たされない心の内を見抜いているのです;

  「貴方は武人としては優れているが統治者としてはむいていない」
  (困難を切り拓いたら平和の中で辟易するそれが貴方の正体だ)
  「人は戦いに倦む! …その事を一番知っているのは貴方じゃないのかっ」
  「幸せそうに見えないな」
  「楽しくなさそうだよ」 ――中山星香『妖精国の騎士』53巻

 心優しき現代的若者アーサー王子が、このように父に同情しつつ父を倒せるのでしょうか。
 よくあるパターンとして、最後の最後に自分の手以外のものが作用して父王は倒れるのではないでしょうか?(雑誌連載ではすでにこの場面は決着がついているかもしれませんが、なにぶん私は読んでいないので・・・)
 あるいは、このように父に同情しつつそれでも父を倒すならば、アーサー自身何らかのダメージを負うことになり、それが原因で彼は次期王の座にはつかないことになるのでしょうか(もちろんアーサーが王にならない理由は、王座より恋人ローゼリイを選んで去るから、というのが九割方でしょうけど)。

 ともあれ、この長編ファンタジーは、親殺し(実際に手を下さなくても)をして大人になる子供、という視点から読んでみるのも、なかなか面白いのではないでしょうか。
 
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7番目の少年
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魔法学園モノ『7番目の少年』 (2005.10)

 この本が出たのは、ハリポタ・ブーム初期の頃でしたが、あとがきによるとハリポタ未読の作だそうです。って、もちろん主人公のアーサー・ロビンくんはすでに78年(たぶん)には、星香作品に登場しているので、星香ファンにはすっかりおなじみさんなのでした。

 のちに光の塔の7代目の長となる天才少年魔法使いアーサーは、そういえば少しだけハリー・ポッターに似ています。生まれながらに魔法の才にずばぬけて恵まれてるんだけど、性格がとてもナチュラルで、謙虚というよりホントに自分に自信があまりないところ。
 とにかく二人ともとってもピュアなので、いわゆる「よい子」だけど読者に対して嫌味がない。“愛される主人公”ですね。

 6代目の長の孫であるアーサーは、素質を見いだされて田舎から光の塔に入ったが、「基礎を学び直すように」と“学び舎”へ転入します。基本のき、の呪文の書きとりの宿題を山のように出され、夜遅くまで一生懸命がんばるかと思えば、鮮やかな手並みで魔法を駆使して学友を驚かせます。

 魔物が学友に取りつく事件などは、ハリー・ポッターにもありましたが、私を安心させてくれるのは、星香ワールドでは、光の塔の白魔法使いは絶対にアーサーをいじめたり裏切ったりしないところです。学び舎の先生も、個性豊かではありますが、最終的には善玉、なのです。

 善玉はどこまでも善玉なんてキレイゴト、かもしれません。でも、ファンタジーにはそういうピュアな面がどこかにあるはずだと思います。
 
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妖精国の騎士つづき『ロビン』 (2009.3)

 長い長い連載の末やっと終わった『妖精国の騎士』ですが、その続編『ロビン 風の都の師弟』が早くも登場。さすがに「プリンセス」ではなく、新進のコミック雑誌の連載(最近雑誌は読まないのでよく知りませんが)。
 中山星香の“三剣”物語群は作者が若い頃からあたためてきたものだけあって、異世界の舞台設定がしっかりしているので、ドンドン続編が作れちゃうんですね。
 2月発売だったのを見落としていて、先日やっと入手したら、すでに第2刷でした。すごーい!

 で、『妖精国』終了の数年後の設定で物語が再スタート。ローゼリィとアーサーは出てこないけれど、その他の登場人物たちは健在らしく、またあの世界が楽しめるのが嬉しいです。ですが、どうかあれほど長い連載にはなりませんように。もう若くない私のような読者は気力が続かないし、買いそろえるのが大変!

 さて、『妖精国』後日談『Ballad』で結婚したローラントとシェンドラは、予想通り喧嘩していました。前にも書きましたが、シェンドラはロリマーの女王でローラントと対等の立場ですし、性格が気むずかしいですから、そういう相手すらも愛してゆけるローラントの純粋さ、器の大きさが改めて示されていると思います。単なる幸せなカップルにしないところが、面白いですね。

 再登場した他の登場人物たちはあまり変わっていないのですが、シリルだけはびっくり仰天。丸顔の子供だったのがすっかり美青年になっていて・・・

 さて、主人公のロビンは、後に白の塔の長を継ぐ魔法使いになるんだと思いますが、今のところ控えめなだけで性格がいまいちはっきりしません。周囲の強烈なキャラクターにおされてかすんでいる感じ。次巻以降の活躍を期待します。
 
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星香流、魔法使いの弟子――『ロビン』2巻 (2010.6)

 超(長)大作『妖精国の騎士』に続く時代のファンタジー、やっと第2巻です。作者のメモに「あり得ないほど仕上がらない」とありましたが、本当に、中山星香さんにしてはとってもスローペースな『ロビン』なのでした。

 70年代からすでにおなじみの魔法使い、7代目アーサー・ロビン(『ロビン』の主人公とは別人)以来、星香さんの描くピカ一な魔法使いは、性格がとても謙虚で無欲。優等生というよりテンネンで、自分の才能のすごさを自覚していません。それで、自身の魔力をコントロールできなくていつも困るのですが、それは他人に迷惑をかけるというより、自分が力尽きてバッタリ倒れちゃう系なので、憎めません。

 『ロビン』の主人公ロビン・プアルは、そんなオーソドックスな星香流の性格に、出生の暗い秘密としいたげられた幼年時代というのが、(アーサー・ロビンにはない)影を落としてます。おまけに周囲をかためているのが、キラ星のように輝かしい『妖精国の騎士』時代のキャラクターなので、何だかとても肩身がせまそうで、気の毒です。それでも卑屈にならないけなげさが、これまた星香さん流。

 それはそうと、キラ星に囲まれて、卑屈にならないかわりにつっぱってしまっているのが、“性格の悪い”王妃シェンドラです。『妖精国』時代から、星香キャラには珍しく、最後までつっぱっていましたが、そのひねくれぶりは幸せな結婚をして王妃となった今も健在で、善人ずくめのキラ星たちの中で異彩を放っています。

  私は自己憐憫と妬みに縛られた鼻持ちならない王女だったわ  ――中山星香『ロビン』

と自分で言い切る彼女は、愛らしい王女たちやその世話係をいつもしかりつける母親でもあります:

  子供たちに時間は守らせなさいと何回言えば分かるの

  あなたが甘やかすからいくら叱ってもあの子は変わらなかった

 “みんないい人”であるアルトディアス側の人々の中で、こんなセリフは目立って悪く聞こえるのですが、実は、世の母親(私も含めて)がふだんよく言いそうな、きわめて自然なセリフなんですね。
 だから私はむかしからシェンドラがかなり大好きなのですが、今回、主人公のロビンに負けず劣らずヘヴィーな試練にあうみたいで、とても気がかりです。といって、もちろん星香さんだからハッピー・エンドなんでしょうけど。
 
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『ロビン』、3巻で完結、いちおう? (2010.6)

 やっと続刊が出たと思ったら、完結ですって。星香版「魔法使いの弟子」、『ロビン 風の都の師弟 3巻』です。

 前の巻までで、戦の予兆とか、実は悪者らしい竪琴弾きとか、シェンドラ女王(王妃)をめぐるあれこれとか、いろいろ展開しそうなネタがあって期待していたのですが、何だかパタパタっと主線だけ進んで物語が終わっちゃいました。
 中山星香の作品にはよくあるんですが、結末の収束がとてもスピーディー。それまでは割と日常を描きこんだり、いろいろエピソードが出てきたりするのに、最後になると余分な説明とかタメとかなしに、急転直下にパッと終わるのです。

 もちろん、だらだら長い結末部というのはインパクトが弱まるときもあるので、「決め」が出たらあとのあれこれは読者の想像に任せてさっと幕を下ろす、というのは星香さんの特徴なのでしょう。
 ・・・なのでしょうが、「足りない! もしかして、連載やページ数の都合では?」といつも感じるのは私だけでしょうか。

 今回の場合、アルトディアスの王城をおびやかす陰謀・呪いを、ロビンが師匠の魔法使いとともに見事に阻止するのが主線のストーリーで、彼が物語の最初からずっとかかえていた魔法の課題「空(くう)から水(をよび出す)」を「決め」として使うのがクライマックスといえましょう。
 しかし、その後、悪のおおもとをローラント王が瞬殺し、その同じ見開きページでジ・エンドとなりました。

 辺境からの使者の姫が殺されて戦が起こりかけたのは、どうおさまったのでしょう。
 王妃はロビンの素性を調査していたのか、どこまで知っていたのか、彼を義弟としてどう迎えたのか。
 悪を城内に持ちこんだ竪琴弾きの正体はどんなだったのか(怪物の蛇が出てきましたが、彼は蛇そのものだったのか?)、などなどいろいろなことが解明されないままです。

 もちろん、推察できるものもあります。ニセの世継ぎアリスト少年は、年長の王女とケンカばかりしていますが、根っこは悪人ではなく、終わりのページの

  アリストは・・・ロリマーの城で育つことになった

の一文によって、将来王女と結婚するのではないかと予想することができます。

 にしても、アリスト少年は結局だれだったのでしょう。素性はまったく分からずじまい。悪い竪琴弾きに利用されたただの少年なら、もし王女と結婚しても、少なくともアルトディアスの世継にはなれませんね。
 ではアルトディアスの世継ぎは誰になるのでしょう。ここで「シェンドラ王妃は多産」という悪者のセリフなどから私が希望的に推測するに、王妃と王はようやく仲直りしたのですから、そのうち王子が誕生するんじゃないでしょうか。
 もちろん、王女が二人いますからそれぞれ将来アルトディアスとロリマーの女王になってもいいんですが。
 ・・・などと、読者は勝手にいろいろ考えてしまいます。もしかして、そういう楽しみを読者に提供してくれるのも、星香作品の良いところ!?

 
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