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HANNAのファンタジー気分

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November 28, 2006
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テーマ:お勧めの本(7242)
カテゴリ:これぞ名作!
The Last Unicorn ピーター・S・ビーグル『最後のユニコーン』の続きです。

 年取った不老不死のユニコーンと、本物になれないままの魔術師、すさんだ生活に嫌気がさした女。彼らは、地上のすべてのユニコーンを追い立てて行ったという「赤い牡牛」を求めて、ハガード王の城にやって来ます。
 “ハガード”とは「やつれた、荒々しい、とげとげしい」という意味だそうで、不毛の地を治める王の城は、海辺の断崖の上にあり、ねじれゆがんだ塔のある恐ろしい所です。近づいてゆくと、古い血の色をした牡牛が現れて、ユニコーンに襲いかかろうとするので、魔術師シュメンドリックは奇跡的に本物の魔法をかけて、ユニコーンの姿を美しい乙女に変えます。

 ここで初めて、年の若いキャラクターが出てきました。ユニコーンから変身したアマルシア姫。そして、その相方として、ハガード王の養子リーア王子が出てきます。
 奇妙な取り合わせです。アマルシア姫は若いといってもこの世ならぬ美しさを持つユニコーンの化身だし、リーアときたら以前は、婚約者の別の王女のそばで雑誌を読んだりしていた、無気力で何にもできない甘ちゃんでした。
 しかし、廃墟のように物寂しいハガードの城で暮らすうち、二人は変わり始めます。リーア王子は姫を一途に愛するあまり、いきなり「英雄」になってしまうのです。竜を退治して首を彼女にささげたり、

  「ぼくは四つの川を泳いだ・・・七つの未踏峰を登り切ったし・・・十五人の騎士たちをぼくは、打ち負かした。・・・巨人たち、娘に化けた悪鬼たち、ガラスの丘、死の謎、おそるべき難題、魔法のリンゴ、指輪、ランプ、秘薬、剣、外套、靴、ネクタイ、ナイトキャップ・・・」
――『最後のユニコーン』鏡明訳

 彼を英雄たらしめたアイテムが、竜や未踏峰から、ネクタイ・ナイトキャップへと並んでいるのが、何だかおもしろいです。おもしろくて、何だかアワレをもよおすほど。本文中でも彼は何度となく「おろかな」と形容されています。
 英雄的行為ではアマルシア姫の心をつかむことができないので、彼は今度はつづりもおぼつかぬまま韻を踏んだ詩を作ろうとします。

  「小夜千鳥、さより、小百合、作用、小夜あらし・・・」
  「ずんぐりころころ、ずんぐりこ。どんぶりこ。ざんぶりこ。畜生」
  「あの処女作を、彼女の部屋の前に置いておこう」――『最後のユニコーン』鏡明訳

 善良で無垢なリーア王子の大まじめな求愛は、読者(と、年を食った魔術師やモリー)には滑稽に思えますが、じょじょに、善良で無垢なアマルシア姫の心をとらえていきます。姫はもはやユニコーンであったことを夢以外では思い出さなくなり、だんだん人間の乙女になってゆきます。

 このままでは、最後のユニコーンが地上から失われる。そう思った魔術師とモリーは、アマルシア姫を何とかもとのユニコーンの姿に戻そうとしますが、できません。それに、愛しあう王子と姫の未来の幸福を思うと、今さら彼女をユニコーンに戻すのはどうかとも思えてきます。
 そうして、最後の決断の時がやって来ます。
 とうとう、赤い牡牛と対峙した時、アマルシア姫をどうするか。姫はもう人間のままでいたいと頼み、魔術師もうなずきます。けれど、最後に反対するのは、姫を愛しているリーア王子自身でした。英雄となった彼は、姫を愛しながらも、この物語の正しい大団円のためには最後のユニコーンが必要だと、悟るのです。それは、相変わらず滑稽で、おろかな選択に思えます。しかし、「おろかな」英雄リーア王子のおかげで、姫はユニコーンに戻り、物語は先へ進むことになります。

 さらに、リーア王子の愚行は続きます。彼は、もはや愛する姫ではなくなったユニコーンをかばって赤い牡牛の前に身をさらし、斃れるのです・・・
 ここに至って、読者にも彼のおろかさが英雄的行為に見えてきます。彼の愛こそが、最後のユニコーンを救ったのですから。

 大団円は、お定まりの奇跡がいっせいに起こります。ユニコーンたちは救われ、不毛の地は生命を取り戻し、リーア王子も生き返ります。主人公のユニコーンももとの森に戻るのですが・・・、人間の乙女としての愛と喪失を知ったユニコーン。そして、愛と喪失を知って王になったリーア。若者たちはほろ苦い体験をして、大人になってゆきます。
 反対に、本当の生を知らぬまま年月を生きてきた魔術師とモリーは若返ります。
 死すべき者と不死の者、若者(子供)と老人(大人)、生命と不毛、などの対比が見事で、どの登場人物もどこか愛しくおろかしい、そんなステキな物語『The Last Unicorn』。わりに平易な英語なので、原書でもお薦めです。





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Last updated  November 28, 2006 11:23:44 PM
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