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カテゴリ:読書
イメージを読む―美術史入門― 若桑みどり
アラスジ:北大生にした集中講座を基に、講義形式で書かれた美術史の入門書。西洋絵画の代表的名作である、『システィーナ礼拝堂天井画/ミケランジェロ』『モナ・リザ/ダヴィンチ』『メレンコリア1/デューラー』『テンペスタ(嵐)/ジョルジョーネ』の四点を読み解く。 イコノロジー(図像解釈学)と言う学問がある。 美術史の中でも、絵画の中に塗り込められた時代的世界観や文化の背景を読み解く学問だ。 絵画とは、“知”の伝達に使われた、最も古く有効な手段である。 例えば、識字率の低い時代において、宗教画は教義の流布に役立てられていた。 また、声を大にして言えない主義主張を秘匿した、メッセージボードであったり。 画家とパトロン(注文主)との密な関係や、逆に意思のせめぎあいが描かれている場合も。 時代の渦に影響された画家が、無意識に世相を反映していたり。 描かれているモチーフ、仕草や構図、色調等を細かく検証する事で、それらを読み解く。 若桑氏の著書を知るまで、こう言う学問があることすら知らなかった。 大変、口惜しい。 “もし、若い頃に知っていたら…”と、思わずにいられない。 これほど、知的好奇心を満足させる学問も、そうあるまい。 と、同時に、若い頃にこの学問に触れ無かった事を幸運に思う。 志した瞬間に、挫折が目に見えているから。 何故ならば、美術史は、文系における最強で最弱の学問なのだ。(と、私は思う) この学問を修めようと考えるなら、気が遠くなるほど広範な知識が要求される。 歴史、風俗史、神学、心理学、科学思想史、動・植物学、哲学、文学etc.考えつくあらゆる分野で、ある程度の知識を有する必要がある。 加えて、英語はもとより、複数の言語を操る事が求められる。 (欧州の主用言語は押さえる必要があるとか) そして、緻密な観察力と根気強い分析能力、斬新な発想と論理的な思考…ほら、最強でしょ。 うわぁ、もうダメ。本当に気が遠くなりそうだ。 自慢じゃないが、英語だってからきし出来ない人間なので、無理も無理。 何よりも、知識のインプットは出来てもアウトプットが出来ない人間は、志すだけ無駄な学問である。 処が、これだけの学問を修めても、残念ながら報われる事が殆どないのが現実。 人類の歴史に深く関わった学問なのに、日本では顧みられる事が少ない。 要するに、全くと言って良いほど潰しがきかない。 故に、最強であり最弱。残念な事だ。 本書は、そんな一般性に欠くこの分野を、誰にでも判りやすく語り掛けてくれる入門書である。 取り上げられた4絵画は、どれも1度は目にした事のあるものであろう。 殊に『モナ・リザ』なぞは、知らぬ人間の方が珍しいくらいのもの。 それを、絵画本体は勿論、作者ダヴィンチの成育史まで紐解いて、分析推察を繰り広げるのだから、面白くない訳がない。 若桑氏の平明で判りやすい言葉で語られると、高度で難解な展開もするすると頭に入ってくるような気がする。(まぁ、気がするだけなのかもしれないが) 専門分野外の学生対象の講義が基なので、一般的な知識だけでも、充分楽しむ事が出来る。 入門書として、大変素晴らしいものだと思う。(自分も門外漢ですが) それにつけても、自分のオツムの悪さが恨めしい。 こう言う学問、やってみたかったなぁ。 暑い夏も終わり近く、到来する物思う秋にお勧めな一冊。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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