投資信託受益権の解約金の支払請求権を受働債権とする相殺が民事再生法93条2項2号により許されるか
再生債務者が支払の停止の前に再生債権者から購入した投資信託受益権に係る再生債権者の再生債務者に対する解約金の支払債務の負担が、民事再生法93条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たらず、上記支払債務に係る債権を受働債権とする相殺が許されないとされた事例(最高裁第一小法廷平成26年6月5日判決)「事案の概要」Xは、Y銀行との間で、投資信託受益権の管理等を委託する契約を締結した上で、平成19年3月までに、Y銀行から本件受益権を順次購入した。信託契約等によれば、Xが本件受益権について解約を申し込む場合、XがY銀行に対して信託契約の一部解約の実行の請求をすると、その旨の通知がY銀行から投資信託委託会社に対してされ、投資信託委託会社が信託契約の一部を解約すると、その解約金が信託会社からY銀行に振り込まれ、Y銀行はこれをXに支払うこととされていた。また、Y銀行は、平成19年1月以降、本件受益権を振替投資信託受益権として管理していたが、Xは、本件受益権につき、原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができるものとされていた。Xは、平成20年12月、支払を停止し、Y銀行はその事実を知った。Y銀行は、平成21年3月、債権者代位権に基づいて、XがY銀行に対して行うものとされている本件受益権の解約実行請求を代位行使し、投資信託委託会社に対しその旨通知した。これにより、信託契約の一部が解約され、信託会社からY銀行に本件解約金が振り込まれた。Y銀行は、Xにつき再生手続開始の申し立てがされる前に、Xに対する保証債務履行請求権を自働債権、本件債務に係る債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をした。「判旨」Xが、その支払の停止の前に、投資信託委託会社と信託会社との信託契約に基づき設定された投信信託の受益権をその募集販売委託を受けたYから購入し、上記信託契約等に基づき、上記受益権に係る信託契約の解約実行請求がされたときにはYが上記信託会社から解約金の交付を受けることを条件としてXに対してその支払債務を負担することとされている場合において、次の(1)から(3)などの事情の下では、Yがした債権者代位権に基づく解約実行請求により、Yが、Xの支払の停止を知った後に上記解約金の交付を受け、これにより上記支払債務を負担したことは、民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるとはいえず、Yが有する再生債権を自働債権とし上記支払債務に係る債権を受働債権とする相殺は許されない。(1)上記解約実行請求は、YがXの支払の停止を知った後にされた。(2)Xは、Yの振替口座簿に開設された口座で振替投資信託受益権として管理されていた上記受益権につき、原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができた。(3)Yが、上記相殺をするためには、他の債権者と同様に、債権者代位権に基づき、Xに代位して上記解約実行請求を行うほかなかったことがうかがわれる。判例タイムズ1406号53頁