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THE Zuisouroku

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2023/10/05
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カテゴリ:追憶
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 渋滞をようやく抜け出し、以前から住宅や個人商店が立ち並ぶ中、嘗てはまだむき出しのまま、今の様なアスファルト覆いを被せ、街路樹などでその痕跡を隠されもせぬまま流れていた小川や、道の脇に、誰一人遊ぶ子の無い、手入れをされぬままの荒れ藪のあった所も、今は、どこにでもある建売住宅やマンションが建っている。そんな面影も失われかけながら、どこか本能に刻まれたような、「におい」のする風景の中、暫く車を走らせると間もなく、私が子供のころに毎日学校へ通い、遊びに往復した路地が見えてきた。 
 速度を落としながらウインカーを左へ出して、車で入ると存外に狭いその路地へと、ゆっくり車を乗り入れる。すると、すぐ前に、子供の頃とほとんど変わらぬまま、私が近所の子供たちと遊んだ駐車場で、脇には製材所があった「広場」がまだ残っていた。
 大人になった私が今、この駐車場に車を止めてドアをあけ、嘗てここに住んでいた大人達と同じ様にして、そこに立っている事に面映ゆさが走る。
 私が、ここを去って、既に時は二十数年を経たのだという事を、周りの雰囲気から告げられている気がして、恐るおそる私は元住んでいた家の前へ行こうと一歩一歩、歩む。雨が降れば大きな水溜りが出来て、アメンボが幾匹か浮かんでいたこの路地だけは、以前と同じくアスファルトで舗装をされぬまま、土の感触を伝える。嘗てと変わらぬ社宅やアパートも、然しおそらく今は知らない人達の住まいだ。一歩歩むごとに元の家に近くなる。
 
 思い出のたくさん詰まったその元住んでいた家は二階建てだった。子供だった私はよく二階の、子供部屋の窓からぼおっと、表の風景を眺めるのが好きだった。宙を飛び交う小鳥や、二階の窓よりも高い空を、ゆっくりと、大群で飛んでいくトンボたち、夜空を薄明るく照らしている街の明かりや、当時は盛んに明滅していたネオンが、夜雲に反射する様子などはとてもきれいだったものである。
 地面の感触は柔らかい。一歩ずつ、また歩みを進める。突き当りの右側には元の「我が家」が建っているはずだ。なんだか怖い。
 そうして、とうとう、私はそこへ行き着いた。家は以前のまま、そこにあった。懐かしさが初めてこの時こみ上げる。と、二階の窓から、私を見ている子供がいた。二階から凝っと私を見ているその子供は、男の子で多分、十歳かそのぐらいだろうと思われた。その男の子の姿が私の子供だった時間と重なる気がした。私もあのようにして、嘗てはあの窓から外を眺めていたのだ。名前さえ知らないその男の子に凝っと見られながら私はなにか、急き立てられる気がして、その場から離れなければならなかった。 
 「広場」と呼んでいた駐車場から、急き立てられながら車を出し、私は右側に、通った小学校を横目に見つつ、実は、ゆっくり見て回りたかったその街の様子などはもう、どうでもよくなっていた。それよりも早くここから去ろうという思いに駆られて車を走らせた。建物は同じでも、もう誰も知る者のない学校も、道の両脇に立ち並ぶ見知らぬマンションと同じく、私には縁のないものだった。面影だけを残しつつも、今はもう、私とは、何も関係の無くなってしまったこの街角。
 
  懐かしさなどはたちまちにして搔き消えた。見知らぬものになってしまったその街の一角。
               
                  過去と言う形骸。


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Last updated  2023/11/14 07:11:13 AM
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