000000 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

THE Zuisouroku

THE Zuisouroku

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2024/05/04
XML
カテゴリ:小説













にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 人権へ
にほんブログ村

 米国大統領のハロッズから提案を受けた内藤は、新しい「世界の枠組み」を日本亡命政権が中心となって作ると言う意味を理解しようと苦しんでいた。
 一連の「般若事象」をどうやって解決し得るのかは未だ分からない。神山ら専門家は行方不明のままである。まさか彼らがシヴァ神らと古代インドの世界で、釈迦を探している事など、この時空の者達には分かろう筈が無い。人間には「いま認識し得るもの」「人間が見たいもの」しか認識し得ないのを多くの人は知らない。

 人間には理解を共有すると言う事がとても難しいのである。その人の置かれた立場でそれぞれの認識は異なる。たとい同じ事項でも、その見え方は様々なのである。
 この困難な状況下で、人がその様々の認識を共有し合う事など出来るのだろうか?なぜ人間には「世界を仕切る枠組み」が必要なのだろうか?我々人類は既に、国連の無力さを嫌と言う程見て来たでは無いか。そうして今、国家もまた、一連の「般若事象」によって、ほぼ無力化した。米国大統領のハロッズは然し、それがチャンスだとも言っていた。枠組みをどう作るのか?内藤はまたも、困難に直面していたがその答えを握る者がいた。それが異次元から跳躍してこの時空へとやって来た魚類人の「モロ」である事を、人類はまだ知る由も無かった。

 ハロッズに何か思惑がある様には見えない。彼は彼で、「新たな枠組み」を構築する事だけを純粋に考えている様子だ。その「枠組み」で、米国が中心になろうと言う政治的な思惑よりも、どこにその役割が果たせるのかだけを考えているのだと、内藤は思った。「壊滅した今こそがチャンスなのですよ」と言うハロッズの言葉が内藤の心にこびりついている。
 日本には油も無い。油だけでは無い、戦時に必須の主要な資源も無いのだ。またどこかの国が「新たな枠組み」に対抗して戦争を仕掛けて来る可能性は大きい。その時、日本人を誰が守るのか?中国は?朝鮮半島は?彼らは、またぞろこの枠組みに妨害工作をして来るに違いなかった。
(彼らにはまだ、山ほど核兵器が残されている・・・。)
 内藤には核兵器と言う存在が、気に掛かった。
(一歩間違えたら、人類は核兵器によって自滅しかねないのだ・・・。)

 
 神山は元気になった。彼は古代インドの社会を目の当たりにして、驚きと感動の中に日々を送っていた。
 海野と違い、神山にはこうした古代社会の様々な儀礼、儀式や呪いは貴重な研究資料だった。
 それら「ほんもの」を直に見て神山はそれを丁寧に記録した。
「さすがは、神山先生だあ!私にはとてもじゃあないが、こういうとんちきは!もおねえ!あきれかえってましたよ!あはははーあ!」
 海野は神山の回復ぶりにも、またその研究熱心な姿勢にも、改めて感心し、また何より神山と言う存在の頼もしさに、心から安堵していたのである。
 かつては『宮崎女子医大病院』の一室で、自分に様々なユング心理学の世界観を教えてくれたのも神山だった。また、「おまじない」もこうした「般若事象」の中にいて、その効果を明らかに知った。海洋生物学者の海野には「とんちきな」事に見える事象でも、神山の眼には「大変に貴重な経験」なのだ。事実、神山の病状を一刻も早く回復させるためにと、この宿『タパス』の女将が呼んでくれた「まじない師」の力で、十日足らずですっかり元気になった神山を見れば、それはもう、決して「トンチキな事」では無かった。さすがの海野も、この古代インドの世界で「おまじない」が持つ効果には、唸らざるを得なかったのだ・・・。
「神山先生が回復なさったんだから、もう!安心だあ!明日からはもっとこの世界の事を理解できるようになりますねえ!」海野はその良き友人の回復をただひたすら、喜んでいた。

「海野先生が集めて下さったこれらの資料や仏陀を名乗る人物ですが、早速私も会ってみたいですねえ。どの仏陀も、「ほんもの」には違いないでしょうが、問題は、釈迦かどうかです。この時代に釈迦がいるとして、それがどんな事を皆に説いていたのか、実際の所分かりませんが、「偽の仏陀」は無いものという姿勢でなければなりません。偽と決めつければ「ほんもの」をも、見失う可能性があるので。「仏陀1とか2」とか、その可能性の順に注目度と言いましょうか、信頼度を付けたいですねえ・・。そのためにも実際に会って話を聞かなければ」神山は新たな研究姿勢を示した。「事実を受け入れる事。事象を否定しない事」全ては、『宮崎女子医大病院』で、神山が語ってくれた事であった。

 「モロ」は航空母艦『信濃』の艦上にあった。第二次世界大戦当時の戦艦や航空母艦と並走する『信濃』の役割を知らない「モロ」はここが居心地の良い大きな船の甲板であるとしか、想ってはいない。
 大いなるものの「意志」は然し間もなく、内藤が悩んでいる戦争と言う現実を「モロ」に見せようとしていた。それは「運命」とも違う何らかの「意図」を含んでいた。「モロ」にはそれを感じる能力が備わっていたが、大いなるものの「意志」はまだ伝わってはいない。
 人間が失った第六感。「モロ」にはそれが当たり前に備わっているが、気を付けていなければその「意図」を感じ取る事が出来ない。人類には、霊能力なのかどうかさえも分からないその、魚類特有の能力により、「意志」はやがて、「モロ」に何かを伝えようとしていた。

 中東に退避している海上自衛隊の川島艦隊は、厚遇されていた。
元来、日本に友好的だった中東諸国は、川島艦隊の存在に期待を寄せていた。川島率いる艦隊は規模こそ小さいが、今この時空に存在する艦隊としては決して小さな存在では無い。水上艦こそ三隻だが、潜水艦五隻を含んだ艦隊は大きな力になるのだ。米国政府の支援を受ければ、今日本近海にある幾つかの艦隊や、米東海岸にある、今、海自の空母『信濃』が共同で作戦行動中の、日米旧式空母群と戦艦群も十分な脅威だ。
 これらの存在を認識してこそハロッズは、内藤に新たな世界構築の話を向けたのだ。世界に今存在する日米艦隊を集めれば、それは可能だと、ハロッズは思っていた。



 人類にはこの世界を変える手段として、今、戦争が唯一の方法なのか?何故再び殺し合いをしなければならないのだろうか?たとい、それが安定を求める手段だとしても、そこには戦争がつきものなのか。異論を抑え込むには戦争と言う暴力を用いなければならないという、人類の性質はなんと哀しいものなのか・・・。
 
 神はあるのだろうかと、ハロッズはまた、『聖書』の「黙示録」を開いた。
 
 (続く)

にほんブログ村 哲学・思想ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 哲学・思想ブログ 社会思想へ
にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2024/05/09 09:31:29 AM
[小説] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.