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2024/05/11
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カテゴリ:小説











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 米国大統領、ウイリアム・ハロッズや内藤の懸念は当たっていた。
 中国や北朝鮮は今、その海軍がほぼ無力化された事を気にする様子はない。自国に有利な状況をつくるためなら彼らは手段を選ばないのだ。未だ有力な海軍を温存している味方、ロシアや第三世界の海軍力に期待して、自国やロシア、北朝鮮の核戦力を背景に、世界に対する主導権を握りたくてたまらなかった。彼らには、世界制覇という目的しか見えず、核戦争に訴えた結果もたらされるであろう事態予測などは、何うでも良い。
 この様な、どこまでも身勝手な国々の集まりが出来つつあった。海軍力を温存したままの第三世界諸国の力をバカには出来ない。彼らの持つ海軍力も、中国やロシア、北朝鮮に味方されればかなりの脅威になる事は間違いない、中でも南米ブラジル、アルゼンチン、チリは大きな海軍を保有している。彼らの動向には絶えず注意を向けなければならないのだ。問題はそれに加えてインドだった。
 日本を国連化して、今後の世界平和のために機能させようと言う、ハロッズ大統領の内々の計画実現は、第三世界諸国の動向に大きく左右されるのである。
 
 幸い日米同盟には、残存する幾つかの自衛艦隊や、時空を超えて出現した日米旧式戦艦部隊、空母部隊が存在する。これらの艦隊と米軍がともに行動する事になる。たとい旧式戦艦群や空母群と言っても、その火力は強力であり、大きな戦力となってくれる。更に自由主義諸国の同盟軍がこれに加わるので、ハロッズや内藤にとって頼もしい存在と言えた。
 日本が国連の形態になって、新しく、世界の枠組みの中軸を作ると言う今後の展開は今、内藤の決断次第と言えた。ここで米国の提案に乗らなければ、内藤の亡命政府は孤立する。そうなれば日本の存続は困難になるだろう。
 
 ハロッズの提案は「日本を中心とした新しい世界の枠組みの構築」というものなのだ。内藤がこれを飲めば、アメリカ合衆国は、内藤を全力で支援してくれると言うのである。
 海自の幾つかの艦隊のみならず、日本国内には未だ陸自の部隊が存在した。その中には、強力な機甲師団や、砲撃を主な任務とする部隊などが含まれていた。「新しい世界の枠組み」には軍隊も必要だとハロッズは実感していたのだ。出来れば日本の陸、海残存部隊がこの働きをして欲しいと、ハロッズは考えていた。
 内藤にもその考えは分かった。日本はその枠組みの中心となる。それは「国連と国家を合わせた新しい国家」の形とも言えた。「軍隊で無い軍隊」とも言える自衛隊には、この枠組みの構築に大きな役割が期待された。
 一方で、アメリカ合衆国がとってきたこれまでの政治手法でもある「代理戦争」のも似たこの提案に内藤は考え込まざるを得なかった。アメリカ政府の都合次第では、中途で梯子を外される可能性が大いに懸念される所だった。


 古代インドの神山たち一行は、早速先日面会したばかりの「仏陀」に、再度会いに出かけた。
 うっそうと茂った藪の奥にその住まいの或る「広場」があった。夏草の臭いでむせ返るその藪を、神山たちは「仏陀」の住まいである大木のある、大きな木陰まで出かけた。
 シヴァ神は気を利かせて土産に古代インドでは貴重な焼き菓子を準備した。この菓子は王侯貴族でなければ食べられない贅沢品だ。真ん中には干した果物が埋め込まれている。とても美味しいものだ。
「毎度、果物では飽きられるからのう!『仏陀』を名乗る程の大物にはこれぐらいの供養をせねばいかんのじゃ!」シヴァ神が自慢げに言う。
「先ほど一つ、頂戴しましたが、古代とは思えません。ケーキみたいで美味し過ぎます!帰りにもう一折、そのお菓子を買って帰りましょうよ!」麻衣がシヴァ神にねだっている。
「よかろう。古代にやって来てから余り、美味しいものが無かったかもしれぬ。買ってかえろう!」シヴァ神が快く承知した。
「供養はあたりまえの社会です。生きた人物に対して供養をするのもこの時代には大切な事です。それで、その人の住まいは、あの祠ですか?」神山が尋ねた。
「そうです!きっとまだ、祠の中で瞑想でもなさっているのかも!」青年が言った。
「すっきりとした、どこか爽やかな人でしたよね!」
「なるほど。気難しく無いなら尚、良い。」神山は先に立って祠へと入って行った。
「御免ください、突然の訪問をお許しあって、何卒我らの供養をお受け下さい。」言いながら神山はこの住まいの主たる「仏陀」に対して礼拝した。釈迦以外にも「仏陀」を称する修行者は存在したが、マドラに複数の「仏陀」がいるとは予想しなかった。案外、事実はこのようなものなのだ。記録された事とはかなり差がある。問題はこれらの「仏陀」達の主張が釈迦のそれに近いかどうか、これをまだ釈迦が若いものと仮定して、その思想の中味を類推しなければならず然も、釈迦に似た思想家はこの時代に他にも、存在していると言う事を考慮せねばならないのだ。
 未熟な釈迦が、未熟な思想を展開している筈なのでそれと見極めを付けるのは極めて困難だろう。
 神山はだからこれらの人たちに、「信頼度1」「2」などと言う風に、信頼度を付ける事にしたのだった。無論、今から会う「仏陀」は一人目なのでナンバリングはまだだ。複数以上の「仏陀」に会って、その主張を聞き取ってから、初めてそこに、釈迦である信頼度の順位を付ける訳である。一人目の「仏陀」は、神山らの持参した焼き菓子の供養を静かに受け入れて、それから快くその思想を話し始めた。



 年齢は若く、出身はベンガル湾岸の小さな漁村だと言う。目は黒い。肌は褐色で然し、人相は鼻筋の通った細面の中肉中背、髪は剃っていた。筋肉質の上半身は裸である。身体には装飾品の類が少ない。両の腕に銀の腕輪があるぐらいだ。暮らしぶりや、清潔で無駄の無い身体などは、彼が真面目な修行者である事を物語る。「仏陀」を称するだけの思想家である事は理解できた。が、若き釈迦に必ず片鱗が見られたであろう、「事象の相対化」「存在の分析」という要素は全く、伺い知れなかった。これが微塵も無ければ、若いとはいえその人物を釈迦だと判断するには慎重でなければならない。穏やかで、賢い人物である事は間違いないが、典型的なインド古来の思想を信奉し、そこに自己を同一化しているこの「仏陀」は釈迦の候補としてかなりの疑問符が付いた。だがこの人物の誠実な人柄や、そのれっきとした修行者であることから、この時代の思想家たちの情報を与えてくれる初めての人物である事は間違いなかった。
 神山たち一行は、この人物に直に名前を聞く事をせず、「仏陀」として礼拝し更に彼に対する供養を約して、静かに祠を出た。
「若くて誠実な人ですが、今後、十年単位で彼の思想を追う余裕はありませんから、候補としてその信頼度が低いとしても、友人として様々な事を教えてくれる、情報源の役目を果たしてくれそうですね。人としては第一級の人物でしょう」神山は言った。
「ところで皆さんも、甘いものが欲しくなりませんか?あの、菓子屋には、あの美味しそうな焼き菓子も、もちろんですが、他にもクッキーみたいなのがあった筈ですね!それにココナッツの砂糖漬け!美味しそうでしたよねー!」青年が菓子をねだった。
「左様。うまそうじゃの~!買って遣わすぞ。コロにもお菓子が必要じゃろう。の~!ころーお!」
「わん!」
 シヴァ神はコロに目が無いのだった。海野も酒好きの甘党だ。待ってましたとばかりに加勢して言った。
「そうそう!コロのお菓子が無いのがね~!可哀そうだもんなあ!」
「わん!」
「よかったなーあ、ころ!お菓子買って頂こうなーあ!」
「わん!!」
 市場では、ヤシの種、ヒマワリの種、ココナツ、ビーツ、ナッツ類や、様々の香辛料などなど、菓子や料理に用いる具材も豊富に揃うのだ。ヤシの実のジュースもおいしく人気がある。また、焼き菓子を商う菓子屋は、ベーカリーのインド版と言えた。コロは久しぶりの甘いお菓子を目にして無我夢中だ。この様子を見て、油で揚げた揚げパンみたいな菓子を、店の主がコロにくれた。
「わん!!」コロは、嬉しそうな事この上ない。貰った揚げパンみたいな菓子を、一口にパクッと食べた。
 一行は市場を見て回りながら、自分らと、世話になっている宿の人たちへ、何種類かの菓子類の他、ナッツや香辛料も沢山仕入れた。宿の調理場への土産にするのだ。
 一人目の「仏陀」の聞き取りは今日だけでなく、今後長く、友人の一人として続く事となるだろう。「仏陀」を称するとはいえ、多くはこんなものだと、神山は満足した。初めから釈迦に出会える確率はゼロに近いのだ。この街にいると言う他の「仏陀」たちにも聞き取りをしなければならず同時に、根気よく様々の情報収集をしなければならない。
 今後彼ら「仏陀」が、必ずしも快くこちらの訪問や調査に応じてくれるとは限らないと言う事をも、含んでおかなければならないのだ。文献の伝える所と現実とは、こんなにも隔たりがあるのだと、神山は改めて考えていた。慎重に調査を続けねば、穴がない様にと、神山はその調査法について、整理整頓を始めた。

 (続く)
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Last updated  2024/05/11 10:18:20 PM
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