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2024/05/18
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カテゴリ:小説












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 ここが正確にいつなのか、紀元前五世紀なのかどうかも定かでは無い。この時代の人たちは自国の王の名前さえも分からないのだ。また、マウリヤ王朝などと言う呼び方はこの時代に、実際にはは無く、もしもタイムスリップしたこの時代が、少しでも前後していたら、その存在さえ確証が無い釈迦と言う人物に邂逅できる可能性はゼロになる。さらに、釈迦のモデルとなった何者かが存在したとして、その人物が何と称していた者なのかさえ不明だ、と何もかもが不明確な中で神山は、先だっての若い武士が、自分の師だと言っていた人物が、釈迦では無いとしてもなんらか、関係を持つ人物なのではないかと考えていた。袈裟に似たものを身に纏う弟子がいて、金銭欲の無いその人が、よしんば釈迦の知り合いなら、その居所が掴めるかもしれない、と彼はそう思った。
 金銭欲が無く、袈裟に似たものを身に纏うと言うだけでその人が、釈迦の関係者かどうか今は分からないが、何か手掛かりになる事があれば良いのだ。せめて今がいつ頃の時代なのか、紀元前五世紀ごろと言っても、余りにもその年代に開きがある。ましてや紀元前六世紀だとか、逆に四世紀だったら大変な誤差となる。統一王朝はどこか?それがあるのか?その王の名も人は知らない。自国の事さえわかってはいないのだ。この時代には、自国の王も、統一王朝も、ただ「王」や「大王」とだけ呼ばれるからだ。名前まで含めてその王を呼べるのは側近の武家や、高位にある武士だけだ。



 海野たちの一行は茶店を出ると、若い武家が歩いて行ったと言う田舎道を、同じ方角へと急いだ。
 シヴァ神は先刻の「師」と呼ばれる人の品定めのために、医院へと帰ってしまったので海野たちは自力で若い武家の後を追いかけなければならなかった。

「日本みたいにおにぎりでもあれば良いんですけどねえ、古代のインドと来ちゃあ、仕方ない」青年が愚痴を言う。
「揚げパンばかりじゃあ飽きてしまうなあ、火を通したもの以外は他人が直に触れた物を食べてはいけないと言うんだから困るんだ。焼き肉だって手で触るんだから・・・」
「自分がこう、自分で焼いたり取ったりしなくちゃいけないなんて、不便なものですよねえ」
「うん。店の人にも悪いしなあ、気でも悪くされたら困っちまう。この国には、こういう慣例が然しあるのだから、その相手を見下す事にもなってしまうし、むつかしいんだ。直に手で触れない物の方がずっと少ないのだから」と海野が応じる。
「おにぎりなら自分で作れば済む事ですしね。それに事寄せてお茶もいれちゃうとか」
「たくあんも欲しいなあ!」
 皆がおにぎりを思い出している。
「こうなると、シャケ弁当も懐かしい!」
「はやく『タパス』に帰って、おいしい酒を呑みたいもんだ!あすこなら心配なく何でも飲み食い出来るからなあ!」
「ほんとうに!」麻衣が言った。

 皮を剥かないものだったら貰ってよく洗った後で、食べて良いと言うから、果物やゆで卵も、殻や皮は向かずに受け取った。そのほうが日持ちがするのだ。伝染病はそれまでのインドの慣習を、さらに広げる事になった。これも楠医師の功績である。皆は質の悪い川の生水も飲まなくなった。
 紀元前のインドに、差別の一つとしてこのような慣習はさらに古くからから存在した。が、今やこれが楠ら、三人の専門家の力で伝染病を防ぐ方法として、一般化され、次第に差別の事象では無く、公衆衛生の概念となった。未来が過去をこう変え得る事を、神山たち三人は注視していた。



 海野たちが行く先に、一本の田舎道の他に、何も見えはしなかった。茶店のおばさんが言っていた若い武家の姿は見えず、横へそれる様な道もない。ただの荒涼とした田舎道だ。
「こんな田舎の一本道なんだから、そろそろ追い付いても良いんだがなあ」と海野が掌で目の上を覆っいながらみている。
「馬でも使っているのかなあ?まあ、しかし一本しかない道なんだから、焦らなくっていいか」
「そうですよね。他には何も無いんだし。次の宿場か茶店でまた道を聞いたり、その武士の事も分かるかも!」青年が応じた。
 そこへ、滾々と湧き出る清水があった。大喜びしたのは、コロである。先刻から水が欲しかったコロが真っ先に、清水に走って行った。
「いやあ!助かったなあ!」皆が口々に喜びを表しながら、清水へと歩み寄った。
「飲むだけじゃあなくて、忘れずに水筒にも入れていかなきゃ!」
 その傍には木陰があった。大きなブナの樹が心地よい風に揺れている。
「しばし!休憩だな!」
「あー良かった!」と青年が走って行くその大木の後ろには、誰かが既に身を横たえて休んでいた。
「先生、ここにもう、だれか寝ていますよ」
「なんか身ぎれいな若者だね。装飾から見て、身分の高い人らしいね」海野が言った。
「先生!若しかしたらこの人が!」
「そうかも知れん。が、起こしては悪いよ、後で話を聞こう」
 
 皆は清水のすぐそばの木陰で、おいしい水に喉を潤しながら、若者が目を覚ますのを待った。

 (続く)
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Last updated  2024/05/20 08:43:35 PM
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