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2020.04.11
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猫会議

 人間のお母さんにグルグル甘えたい赤ちゃん猫や女の子連中は、お母さんの畳のお部屋でゴロニャンしている。

ニャング長老が厳かに口を開く。

「さて、我々は、猫会議を開催した方が良いと思う」

「はーい、賛成です、議事堂にみんなを集めましょう」と威勢良くお返事したのは、貴族猫セルゲイだ。

ロマノフの貴公子らしい物腰で、猫さん全員を議事堂に集めた。

「にゃーん、にゃーん」

「猫会議だ、にゃーん」

「おいらは、会議が大好きニャーン」

「なんのお話になるか、楽しみにゃーん」

 議事堂というのは、ダンススタジオの庭のことで、沢山の木や花が植わっている。草を踏むと、足の裏のマシュマロが気持ちいい。

 人間のお母さんは、ひとつひとつの植物をとても大切にする。例えば、クンシラン一つとっても、これは両親が離婚した時に、父方の実家の舅が母に贈ったものを、育てて、増やして、根分けしたものを今、こうして自分も大事に育て、幾株にも増えて、親子三代に渡って花を咲かせてきたから大切なんだという具合に。 

 猫会議の書記は、猫新党「飼い猫の生活が第一」の書記長猫、ナナだ。地味な色のスーツを着こなし、筆記用具を構えている。

 元東京都知事猫の猫之助がお行儀よく着物姿で、隣には助五郎ニャン左右衛門がどっかりと座る。徳川御三家尾張徳川家江戸上屋敷に飼われていただけあり、三ツ葉葵の御紋付きの羽織をさりげなく着ている。このようなブランドお猫は、東京山の手でしか見かけない。下町にはまずいないと断言できる。

「皆さん、お集まりになりましたか」と、猫之助がざっと見渡す。

赤いお座布団の上に座った長老猫ニャングさんをはじめ、

ロシア猫セルゲイの妹で、高価そうな毛皮のコートに身を包んだロマノフ皇女猫のアナスタシア、

海賊キャプテン・クックの衣裳に身を包んだ、勇ましいヘムヘム、

ニャング長老が育てた若き政治家猫で、新宿区長から新宿共和国の初代大統領となったクリームベージュのジークフリート(ジークは勝、フリートは平和なので、通名は勝平かつひら)、

目と目の間が離れた、おっとりとした猫で「飼い猫の生活が第一」の原子力問題調査特別委員長かつ海流船長の海流発電事業猫組代表キジトラのまこと、

新宿区の分裂を阻止し、「無用な土地などない」が信条の農林水産専門家ふー子、

パラオでは、海流船長たちの賄係の銀縁眼鏡ザーマス言葉で痩せ型のおばさんの千代田区猫、

国家基本政策委員長にゃんぐ長老猫のボディガードで、ホイットニー・ヒューストンの映画に出演し、仲間を守るためなら自分の命も惜しまない正義の猫ステパン、心の優しいお茶屋さんの家で育ち、おっとりしているが、レシートを渡しておくと、全部データを打ち込んでくれる経済通猫のもうふ、

全世界の人間と動物の健康のため、全面禁煙を訴え、パラオでも森林火事防止のため、パラオ島内での全面喫煙禁止を主張しているぴょんぴょん、

ラクダ色の背広に水色のテキ屋シャツ、腹巻衣装の興行仕込屋で、祭りや興行を専門とするプロデユーサー猫のキジ寅次郎、

キジ寅次郎と盃を交わした子分で、悪人をシャーと言って威嚇する舎弟猫シャー、

その他、全国の保健所に捕獲されて、殺傷処分を待っていたところを解放されて、パラオの造成地事業「A la Gatta」(お猫風)に参加した、大勢の猫たち。

怪力猫、

無骨猫、

力士猫、

ボス猫、

体力猫、

運動猫、

五輪猫、

国体猫、

労働猫、
K猫、

労使猫、

闘志猫、

勇気猫、

正義猫、

気力猫、

元気猫、

拳闘猫、

普通猫、

金満猫、

貧乏猫、

寿命猫、

病弱猫、

花粉猫、

療養猫、

老齢猫、

介護猫、

看護猫、

医療猫、

医学猫、

病院猫、

などの顔ぶれ。

「あっしら、保健所の捕獲檻の中で殺されるのを待っていた哀れな猫で、帰るところなんざあ、ありやせんや。

だから、人間のお母さんのところへ、こうして寄せてもらって、感謝でやんす」

「老いぼれで飼い主に捨てられて、保健所に捕獲されたわしなんか、もう何もやることがないと思っていたわい。

パラオの造成地事業、足でふみふみすることで手伝わせてもらって、残りの猫生をこんなに有意義に過ごせるわい。

わしみたいな老いぼれに声かけてもらって、わしは嬉しい」

「右に同じにゃー」

「おじいさん、泣かないで、泣かないで。

世の中には、いなくていい猫なんか一匹もいないの。

猫は最後までふみふみできるから、それで十分世の中に貢献できるの。

ふみふみできなくなっても、こうやって目を開けてみんなを応援してるよっていう姿を見せることだけでもみんなが元気づくから、それだけでもいいの。

命は、あるだけで、価値があるの。

猫はそこにいるだけで、世の中に貢献してるの」

とスワロフスキーのイヤリングをキラキラさせながら老齢猫や病弱猫を励ます皇女猫アナスタシア。

「本日の書記を務めさせていただきます党幹事長のナナでございます」

と岡山のきびだんごさん宅で生まれたナナが、ピョコリと頭を下げる。

「人間のお母さんがおちごとなくなっちゃったら、困るのは僕たちにゃん」

「僕は、グルメで育っちゃったから、今更、黒缶や前浜と言われたって、ちょっと」

「僕たちには、二つしか道はない。

一つ目は、人間のお母さんのいう通り、我慢して、スーパーマーケットで売ってる安い大きな缶入りと捨て猫捕獲里親センターでいつも出されていた大袋入り粗雑なカリカリ飯に甘んじる。

二つ目は、最近の世の中の動きがなんかおかしいと猫の鋭い勘を働かせて、原因を突き止めることで、世の中と人間のお母さんのお役に立つこと」

「あっしは、断然、二つ目に乗らせてごわすにゃんよ」「おいらもでごぜーますにゃー」

「猫は、困難に立ち向かうから猫ざーますにゃん。安易なことを選んだら、犬になってしまうでざーますにゃん」

「そうだ、そうだ、猫は気高い生き物だから、多少大変なくらいのことが好きにゃん」

「それは、ギリシア神話のヘラクレスと同じにゃ」

「んだ、んだ、わしもおんなじ気持ちにゃん」

「世の中何でも自粛要請が来てるのに、パチンコ屋はやってるやんけ」

「いいとこに目をつけてるにゃん」

「混んでて、換気が悪く、パチ玉が汚いにゃん」

「本当は、パチ屋って、危なくないんじゃないの」

「パチ屋閉めると、まずいっすって大人のジジョーがあると見たにゃん」

「土建屋も関係なく、工事を続けてるにゃー」

「日本国の政治家は、ほんの数日までマスクをしてにゃんねー」

「コネクティングルームの女医さんも、ダイヤモンドプリンセスの中で、マスクつけてなかったにゃん」

「あの女医さんの男の趣味、悪すぎにゃー」

「国会議員たち、急に最近マスクつけ出したけど、ひょっとこはすぐ外しちゃうにゃー」

「あの人たちって、武漢コロナ、怖くないのかな」

「国民にはマスクをつけろと言ってるにゃー」

「自分たちだけワクチン打ってるってことないよにゃー」

「武漢肺炎治すお薬の会社って、儲かるよにゃー」

「太平洋の向こう側の国とか、ヨーロッパでも5Gやってる国の死亡率が高いって話にゃー」

「日本も、5Gやった次の日から、死ぬ人が多くなったにゃー」

「オリンピックやらなくなったから、検査件数多くしたんじゃないかにゃん」

「にゃん、にゃん」

「ゴロゴロ」

「ガヤガヤ」

 新宿共和国大統領猫ジークフリートがすくっと立って言った。

「みなさん、ご静粛に。

情報を収集しよう。

今は情報と知性こそ武器だ。

僕と一緒に、数匹一緒に来て欲しい。

物資を運ぶから、力持ちの仲間が望ましい」

「おっ、出ましたね、あっしの活躍できる場面が」

「あたしも、行くよー、力なら任せてよ」

女子柔道金メダル猫「や笑(わら)」が、黒帯をビュンビュン振り回しながら言った。

「物資の運搬なら、任せておくんなさいよ。

何しろ、俺様ときた日にゃ、密林の中、自転車の上に大砲積んで、運ぶベトコンに飼われていた先祖を持つくらいだから、自転車1台あれば、なんでも解決さー」「あ、大丈夫だよ、健闘猫くん、僕、新宿共和国の大統領だから、大統領専用車輌っていうのがあって、それで運べるから。

呼べば、5分で来るんだよ」

かっこいいにゃん、若き大統領猫、ジークフリート。

「それでは、物資調達隊は出発で、残りのメンバーは、ここで最高機密会議を始めよう。

人間のお母さんのところでグルグルごっこしてる子たちも、呼んでくれ。

でも、全員来てしまうと、お母さんが寂しがるから、双子の子供白猫カールとブリュンヒルデだけは、残しておいてくれ」

とテキパキ指示を出す元東京都知事猫の猫之助。

 その時、表で、ブッブーと音がした。


Simフリー端末

 黄色い軽自動車のダイハツESSEが、ダンススタジオの正面に停まっている。運転するのは、白手袋の運転猫フクザワだ。以前はテストドライバーとして鈴鹿サーキットで勤務していたが、今は、新宿共和国大統領府で運転手をしている。

 新宿共和国大統領猫のジークフリートに続き、数匹のお手伝い猫が乗り込んだ。

 行き先は、新宿西口、ヨドバシカメラのちょっと先。そこにSimフリーの中古携帯端末がたくさん売られている。ジークフリートが店に入って行くと、

「これは、これは、新宿共和国大統領閣下」

と、人間どもがへいこらして、ジークフリートを先頭とした猫集団を迎える。

「新宿共和国内で、お仕事をさせていただき、誠にありがとうございます。

この国は消費税がありませんから、日本全国からお客様がおいで下さって、店はたいそう繁盛しております」「そうか、それは良かった。

これからも、元気で皆さんのお役に立つようにして下さい」

「承知いたしました。

大統領閣下、ますますお元気でお仕事をお続けなさることを、国民一同お祈りしております」

店主は、深々と頭を下げた。

 猫たちは、タブレットや携帯端末などを猫の頭数分だけ買うと、猫通過で代金を払い、出て行った。

 猫通貨は、1nekoが日本円の一円に公式レートでは対応しているが、実際には、1nekoで日本円の1.3倍の購買力を持つ。

つまり、価格に日本円で130円と表示されていても、1nekoで買える。

 これはどういうことかというと、猫通貨は、たぬきが新宿御苑の葉っぱで作る無限の自然を担保としている通貨なので、いくらでも発行できる。たくさん発行して、新宿共和国内でそれを使うことで、使う人が増えて、価値が上がる。スイカやパスモより優れているのは、日本円に対して1.3倍の購買力を持つという点だ。
 しかも、たぬきのお金は、72時間以内に使わないと、葉っぱに戻るから、みんながどんどんお金を使い、お金が一つのところに止まっていない。お金が動くこと、まさにcurrencyの言葉通り、流れて行くのである。通貨というのは流れるものなのだから、使われて初めて価値がある。

 人間は経済学という間違った学問に洗脳されているから、猫にでもできる経済原理を理解していない。

 なぜSimフリーの端末を買うといいかというと、猫に電話をかけて来る人はいないから、猫に電話番号は必要ない。猫に必要なのは、wifiだけだから、Simフリーの中古端末で十分なのである。中古といっても、新古というか、ほとんど新品と遜色なく、元のパッケージや付属品までついて、しかも価格が安いから、2台目以降はこれで十分。

 

 黄色の軽自動車大統領公用車に乗って、西新宿から四ツ谷に戻るためには、靖国通りの大ガードを通るという手もあるけれど、ジークフリートたちは、甲州街道に出て、新宿御苑の前を通った。たぬきに差し入れを渡すためでる。

 たぬきは、新宿通りの老舗手作り坂本屋のカステラが大好きなので、行きに買ったカステラの包みをタヌキの愛人タヌ子に託した。

四ツ谷の老舗

 坂本屋は創業明治30年の老舗で、カステラ作りに防腐剤を使っていないため、フレッシュな美味しさが売りで、通りの向かいの加賀百万石のお菓子屋森八と共に、四ツ谷名物として親しまれている。

 森八は、寛永8年に加賀藩お殿様のお膝元金沢で創業し、本店はむろん金沢であるから、四ツ谷の店は東京支店となる。

 坂本屋は、跡取りがいないため、この先どうなるのと、人々が心配している。大丈夫、伝統の味を残すため、大統領猫のジークフリートがそのうち、おかし作りが好きな女の猫たちを数名、弟子入りさせて、伝統の味を守るために動き出すだろうから。

 

 四ツ谷三栄町の誂え足袋の武蔵屋は、まだ商売を続けているけれど、後継者がいないので閉じるところだった。

 服装の西洋化が原因なだけではなく、1足千円の安い輸入品足袋が市場に出回るから、神楽坂芸者も安物を履いてお座敷に出る世の中になってしまった。そういう時に、大枚数千円から1万円を支払ってでも、自分の足に合わせて、自分の好きなデザインの布や材質を使って誂えた足袋が欲しいと思う人が減るというか、いなくなるのは、世の中の流れだった。

 ジークフリートが新宿共和国の大統領になってから、国内の伝統文化保護政策として、選りすぐった腕利きの猫たちを数匹、足袋の武蔵屋師匠に弟子入りさせたから、誂え足袋の技術は、足袋の足型を作製する木工技術とともに、次の時代に受け継がれる。

 人間が区長をやっている新宿区だった時には、とっくに失われてしまっただろう伝統工芸技術が、猫が新宿共和国大統領になることで、立派に受け継がれている。

 四ツ谷の荒木町にあった下駄屋も、1年前にあやうく店を閉じそうになった。江戸の忍者たち、つまり下級武士相手の女郎屋街として、その後も荒木町芸者の飲み屋街になったが、今では、草履や下駄を履く人も極端に減った。ところが、新宿区から、新宿共和国になり、猫のジークフルリートが大統領になってからというもの、和装が尊ばれるようになった。共和国大統領府の人間職員は、通勤に和装を義務付けられ、Tシャツとジーパンで来ようものなら、その日の日給が半額になるという徹底ぶりだったため、荒木町の下駄屋は、命を永らえた。

 伝統的な価値観を大切にする国政を行う猫大統領ジークフリートの政策を、人間の政治家も真似するべきだが、不幸なことに、政治家になるような人は、ともかく文化的、芸術的、学術的なバックグラウンドが乏しい人が多いので、まず、土建業や機械を使った大きくて派手なことをしたがるのである。

猫は情報強者

 

 かくして、四ツ谷本塩町のダンススクールの庭に戻ったジークフリートたちは、Simフリーの端末を猫たち全員に配った。

長老猫ニャングさんは、

「わしは長く生きているから、今の世の中が何かおかしいことには、すぐわかる。

東京都知事になった猫之助が赤ちゃん猫の状態で、人間のお母さんのところへ来た時に、わしはすでに6歳の青年猫になっておったのだから、かなり長い間、人間の生活を見て来ている。

その間、様々なことがあった。

リーマンショックもあれば、福島原発爆破事件、そうして、オッホン、不正選挙裁判の頻発、熊本地震や、北海道地震もあった。

しかし、今回の武漢コロナは、猫の目から見てもおかしなことが多すぎる。

人間は愚かなことに、新聞とテレビで洗脳されていて、何も考えられないから、優秀な猫の諸君に、わしはお願いしたい。

わしらの恩人である大好きな人間のお母さんとこの世の中、を助けてあげたい。

新宿共和国は、幸い、わしらのホープであるジークフリートが大統領としてうまくやっているから、何ら問題はないけれど、日本国では大変なことになっておる。人間のお母さんが、サンバ隊の上演や、サンバ衣装レンタルができなくて、商売あがったりになっておってな。

サンバ隊の皆さんが、リハーサルや衣装合わせに登場すると、みんな、若い頃のわしを見つけ、『きゃー、かわいい』とか、『一緒に写メ撮らせて』とか騒ぎおってね。

数年の間にレオタードギャル通算100名とツーショット写真を撮った猫が、どこにおるかね。

サンバは楽しい。

わしはあのオーストリッチの羽根の中で、お昼寝するのが好きでな。

衣装スタッフさんを随分手こずらせたもんじゃわ、にゃ、にゃ、にゃ」

長老にゃんぐさんは、楽しかった当時を思い出して、思わずにやけた。

「さあ、みんなの知恵で、人間のお母さんがまたわしら猫たちに、柔らかな若鶏の『いなばの焼きささみ』や、『少しだけ、だから贅沢』のモンプティや、銀のスプーン三つ星グルメの『美味しいお魚のやわか仕立てフレーク』を買えるようにしてやって欲しい」

「ニャング長老のお言葉、もっともです。

それでは、各自、情報を収集して、気になる情報があったら、発表して欲しい」

猫之助がキビキビと響き渡る。

「ガッテンにゃー」

「わかってにゃー」

「にゃん、にゃん、ぐるぐる」

「猫のおちごと、頑張るニャン」

「猫はいつでも、本気出す」

猫たちは、思い思いの格好で、情報を集めだした。

集めた情報は、直ちに大統領ホットライン裏ウェブサイトに送られ、猫たちみんなが共有できるようにした。 

 大統領公式ウェブサイトは、新宿共和国の住民どころか、全世界の人が見られるが、裏ウェブサイトは、猫大統領が関係している猫案件のため、猫しか見られない。

「人間、ザマーミロ、おみゃえら、情報弱者にゃん」

「人間は、情報貧乏にゃー」

「にゃん、にゃん、ぐるぐる」






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最終更新日  2022.05.24 15:01:26
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