「二つの海の交わり」 インド国会における安倍総理大臣演説 NO2
NO1先ほどご紹介しましたとおり、私の今度の旅には、日本を代表する企業の皆様が200人ちかく、一緒に来てくれています。まさに今、この時間帯、インド側のビジネスリーダーとフォーラムを開き、両国関係強化の方策を論じてくださっているはずです。 こうなると、私も、日本とインドとの間で経済連携協定を、それも、世界の模範となるような包括的で質の高い協定を一刻も早く結べるよう、日本側の交渉担当者を励まさなくてはなりません。インドの皆様にも、早く締結できるようご支持を賜りたいと、そう思っております。 両国の貿易額はこれから飛躍的に伸びるでしょう。あと3年で200億ドルの線に達するのはたぶん間違いないところだと思います。 シン首相は、ムンバイとデリー、コルカタの総延長2800キロメートルに及ぶ路線を平均時速100キロの貨物鉄道で結ぶ計画に熱意を示しておいでです。あと2カ月もすると、開発調査の最終報告がまとまります。大変意義のある計画ですから、これに日本として資金の援助ができるよう、積極的に検討しているところです。 そしてもう一つ、貨物鉄道計画を核として、デリーとムンバイを結ぶ産業の大動脈をつくろうとする構想については、日本とインドの間で今いろいろと議論を進めています。とくにこの構想を具体化していくための基金の設立に向けて、インド政府と緊密に協力していきたいと考えています。 今夕、私はシン首相とお目にかかり、日本とインドの関係をこれからどう進めていくか、ロードマップをご相談するつもりです。会談後に、恐らくは発表することができるでありましょう。 この際インド国民の代表であられる皆様に申し上げたいことは、私とシン首相とは、日本とインドの関係こそは「世界で最も可能性を秘めた二国間関係である」と、心から信じているということです。「強いインドは日本の利益であり、強い日本はインドの利益である」という捉え方においても、二人は完全な一致を見ています。* * インド洋と太平洋という二つの海が交わり、新しい「拡大アジア」が形をなしつつある今、このほぼ両端に位置する民主主義の両国は、国民各層あらゆるレベルで友情を深めていかねばならないと、私は信じております。 そこで私は、今後5年にわたり、インドから毎年500人の若者を日本へお迎えすることといたしました。日本語を勉強している人、教えてくれている人が、そのうちの100人を占めるでしょう。これは、未来の世代に対する投資にほかなりません。 しかもそれは、日本とインド両国のためはもとよりのこと、新しい「拡大アジア」の未来に対する投資でもあるのです。世界に自由と繁栄を、そしてかのヴィヴェーカーナンダが説いたように異なる者同士の「共生」を、もたらそうとする試みです。 それにしても、インドと日本を結ぶ友情たるや、私には確信めいたものがあるのですが、必ず両国国民の、魂の奥深いところに触れるものとなるに違いありません。 私の祖父・岸信介は、いまからちょうど50年前、日本の総理大臣として初めて貴国を訪問しました。時のネルー首相は数万の民衆を集めた野外集会に岸を連れ出し、「この人が自分の尊敬する国日本から来た首相である」と力強い紹介をしたのだと、私は祖父の膝下(しっか)、聞かされました。敗戦国の指導者として、よほど嬉しかったに違いありません。 また岸は、日本政府として戦後最初のODAを実施した首相です。まだ貧しかった日本は、名誉にかけてもODAを出したいと考えました。この時それを受けてくれた国が、貴国、インドでありました。このことも、祖父は忘れておりませんでした。 私は皆様が、日本に原爆が落とされた日、必ず決まって祈りを捧げてくれていることを知っています。それから皆様は、代を継いで、今まで四頭の象を日本の子供たちにお贈りくださっています。 ネルー首相がくださったのは、お嬢さんの名前をつけた「インディラ」という名前の象でした。その後合計三頭の象を、インド政府は日本の動物園に寄付してくださるのですが、それぞれの名前はどれも忘れがたいものです。 「アーシャ(希望)」、「ダヤー(慈愛)」、そして「スーリヤ(太陽)」というのです。最後のスーリヤがやって来たのは、2001年の5月でした。日本が不況から脱しようともがき、苦しんでいるその最中、日本の「陽はまた上る」と言ってくれたのです。 これらすべてに対し、私は日本国民になり代わり、お礼を申し上げます。* * 最後に皆様、インドに来た日本人の多くが必ず目を丸くして驚嘆するのは、なんだかご存知でしょうか。 それは、静と動の対照も鮮やかな「バラタナティアム」や、「カタック・ダンス」といったインドの舞踊です。ダンサーと演奏家の息は、リズムが精妙を極めた頂点で、申し合わせたようにピタリと合う。――複雑な計算式でもあるのだろうかとさえ、思いたがる向きがあるようです。 インドと日本も、そんなふうに絶妙の同調を見せるパートナーでありたいものです。いえ必ずや、なれることでありましょう。 ご清聴ありがとうございました。人気ブログランキングへ