二つの鑑識眼
鑑識眼とは、刀を観て茎に刻された切銘を精査して、此の刀工の作に間違いない事を見極める眼力の事であります。此の事については、既に皆様方も御承知であろうと思っています。過去鑑識眼について当ブログにて記載していますので 【鑑識眼】クリックして御覧ください。今回私が書こうとしているのは、もう一つの鑑識眼の事であります。刀を鑑賞する度に良く考えてしまうのですが、此の刀は作柄としては良く出来てはいるが、刀工自身、作位としてはどの位置に格付けしたのだろうかと思うことがあります。刀工自身は、焼き入れ後に傷や割れの確認後、刃紋の状態を見て出来の良否の判断を行ない、大きな欠点が無ければ世に出したのだろうと考えています。只、同一刀工の作であっても、傑作として賞讃されている刀も有れば、今一出来が劣ると思われる刀も現存しています。刀工によっては、自分で傑作と考えている様な刀には、茎の銘の切り方を常よりも長銘に切ったり、添え銘をしたりして区別したと思える刀も残されています。もう一つの鑑識眼とは、同一刀工の手に成る刀の中で、此の刀の位置付けは作域1から100の間で、どの位置に格付けされるのかを見極める眼力であります。之を見極めることは非常に困難で、一般の愛刀家では到達し得ない境地であります。何故なら、其の為には膨大な刀の鑑賞、記憶が不可欠でして、趣味としての刀剣鑑賞程度では遙かに遠い道程であるからです。一般の刀剣愛好家が、同一刀工の刀を多く所有する事からして現実的ではありませんし、鑑賞会に於いても、同一刀工の刀を並べて鑑賞することもありませんから、作柄の位置付けを見極める事は容易なことではありません。私が所蔵している伯州住秀春の作は、刀が五振り短刀二振りですが、どの刀も之という欠点は有りませんし、匂い口の状態からみて平均的な出来では無いかと思っています。では、良く言われる傑出した出来口とはどの様な出来映えを云うのでしょうか?1】常々私が思うに、通常の出来口に比較して特段に匂い口が明るい。2】広狭のある乱れ刃に於いて、沸の付き方が元先表裏殆ど変らない。【沸の粒の大きさのことです】3】地肌の鍛えが表裏均一に鍛えられ、通常作に較べ鉄色が明るい。外にも有るかとは思いますが、大体はこんな所では無いでしょうか。何かの本で読んだような記憶もありますが、傑作と云う物は通常作に較べ意外な出来口であって、傑作と失敗作は紙一重である。と云うようなことを有名研師が語っていたことも思い出します。一流刀工と呼ばれる刀工の作柄は、出来口の劣る刀が殆ど無く、傑作刀と云うよりも、平均的な作柄の刀を多く造ったことで評価されているのだと思っています。少し横道にそれましたが、何卒ご容赦下さいますようお願い申し上げます。