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テーマ:短編小説(5)
カテゴリ:創作
もしも自分にNHKに出演する機会があったら、絶対あのことを告発してやろうと思い続けていた。 あのこととは、かの理事の報酬が高額なんじゃないかということ。 かの理事とは、例の番組で降板し、退社したかに見えたがいつのまにかデレクターとして復帰していた、かの人物を指す。 俺が汗水たらして払った受信料が、何食わぬ顔で復帰したかの理事の報酬に、今後も高額な報酬として支払われ続けることに対する義憤の念を、出演時間フルに使ってとうとうと、カメラ目線で語ってやる、そう思い続けながら毎日、バイトの宅配トラックを運転していた。 当然放送はライブでなければならない。 しかしその時は突然やってきた。 その日某街中、路肩の木陰に駐車し昼食後小一時間一服していると、マイクを持った男性タレントを中心に、カメラマン、ガンマイク持ち、AD?、デレクター?、何担当?、男だらけのおそらくTV番組スタッフ10人ほどのわだかまりがこちらへ向かって足並みそろえ小走りでやってくる。 運転席の窓越しに、男性タレントが何か声をかけてきた。窓を開けて欲しいのだろう、そう察した俺は割と落ち着いた様子でスッとタバコの火を消し、スマートに窓を開けた。 「はい?」と軽く返答するが、決してよそよそしくなくカメラの手前一応、口角をあげて答える。 男性タレントが上を見上げ嬉しそうに語りかける。 「…ですよね!あれって、…がなは…は、さ…あ、よね!ら、…ま」 何を言っているのか聞き取れない。 特にこの男性タレントに問題があるとか個性的とかいうわけでもなく、普通に聞き取れないのである。 とっさに聞き直そうと顔を歪めた刹那、 (これは) と思い、出た言葉が、 「そうです‼︎」 と、一旦意味なく快諾し、そして、 「ところで、この放送NHKですか⁈生ですか、生放送ですか⁈」 そう問いかけると疎通が上手くいったと思ったのか、男性タレントは満面の笑顔になり、 「そうです‼︎NHKです!お昼の番組、『となりの昼休憩』です!」 (来た‼︎) 俺というちょうど良さそうな昼休憩ターゲットを見つけ、とりあえず番組を成立させようとしたのが運の尽き。 次に男性タレントが何か質問し、マイクをこちらに向けた時、気がつけば全く関係のないことを延々と俺は話し初めていた。 かねがね思っていたかの理事の報酬に関する義憤の念を、腹の底で煮えたぎっていたマグマが溢れてるがごとく、カメラ目線でとうとうとのたまい始めたのである。 「理事」という単語が出た瞬間にまず反応したのがさすがデレクターらしき風貌の男、ポカンとしている男性タレントにマイクを下げよう声を上げ手を伸ばし腕に触れるが、逆に何をするんだという訝しげな表情の男性タレント、どうしたんですかと周りのスタッフ数人、かまわず俺の口から流れ出る「元理事」、「デレクター」、「復帰」、「報酬」、「NHK」、「受信料」といったキーワード、一人また一人と驚愕無表情に変わっていくスタッフ、場はじっくりと混沌とし、怒号や悲鳴が聞こえ始める、平日の真昼、全国のTVから。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 4, 2024 11:09:52 PM
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