【創作短編1】あるNHK女子アナの涙③
気がつけばガンマイクを掲げたメガネ男子ただ一人突っ立ったった状態。足元に倒れ込んだ男たちを見下ろしつつ、ガンマイクは高々に俺の眼前に掲げられ、止まらない俺のメッセージは今おそらく容赦なく全国区へと放送されている、はず。ハッと我に帰ったメガネ男子は俺の方を向くと一瞬後退り、トラックから離れようとしたがその刹那、俺はガンマイクの肢の部分を右手でガッチリホールドし引き寄せ、決して報道されてはならない元理事の報酬に関する熱い想いを一元一句漏らさぬよう全身全霊で放ち続ける。メガネ男子も負けずとガンマイクを俺の手から引き離そうと、腕を大きく右へ左へ、フェイントで前へ後ろへと、多少なりの工夫をしつつ揺動作戦を試みながら器用にフリ動かすがなかなか俺の右手から引き離すことは叶わない。俺の腕や体力は明らかに今のバイトはたくましくなっている。むしろこの時のために鍛えていたのかもしれない。一度掴んだマイクは決して、離さない。(つづく)