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テーマ:今が旬の話(414)
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『…おれはどこへも出発せず、
一人の敵も殺さず、選択をせず、 男らしい行動もせず、ただじっとして老年を迎えるだろう。 そしておれはおだやかな微笑をうかべた黄色人種の老人として 寝具をほんの少し吐瀉物で汚し、死んでゆくのだ。…』 (中略) かれは嫌悪と憐憫、自分と頼子の七三○五回の性交と五リットルの精液とに たいする嫌悪と憐憫にさいなまれた。 しかしこの原始的な道具は、おれの精虫を実に膨大な数、 流してしまったわけだ。 あいつらがみんな生まれてきたとしたら大家族だ。 (中略) この世はあいつらにたいしてそれほど推薦すべきところではない。 おれやおれと同時代の若者は、汚水にまじって暗い下水管に流れ込み、 そこで漂白されてしまうべきだったのかもしれないんだからな。 大江健三郎『われらの時代』(新潮)より お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.05.17 22:10:41
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