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テーマ:今が旬の話(414)
カテゴリ:カテゴリ未分類
「今日、ぼくは、映画を見て来たよ」
おまえは、用心深さをさとられないほどの、用心深さで、 ぼくの繃帯の割目をのぞきこみながら、次の言葉を待っている。 「いや、映画が見たかったわけじゃない。本当は暗闇が欲しかったんだ。 こんな顔で街を歩いているのが、急に悪い事をしているみたいな、 負い目に感じられはじめてね。(中略)」 「どんな映画だったの?」 「おぼえていない。なにぶん泡をくっていたからね。(中略) ぼくは、いきなり雨宿りでもするみたいに、 近くの映画館に駆け込んで…」 「どの辺の映画館?」 「どこだって同じことだよ。ぼくは暗がりがほしかったんだ」 おまえは咎めるように、唇のまわりに力を込めた。(中略) ぼくは激しい後悔におそわれた。 (新潮) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.08.01 13:28:48
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