春日講の「春日宮曼荼羅」
春日講は「春日曼陀羅」が本尊です。奈良の町々には、春日講(しゅんにちこう、かすがこう)と呼ばれる春日信仰の講社があります。その本尊は多くの場合さまざまな形の「春日曼陀羅」を掲げて行われます。春日大社の鳥瞰図を描いた「宮曼荼羅」、神を背中に乗せた神鹿を描いた「鹿曼荼羅」、春日と興福寺を描いた「社寺曼陀羅」、あるいは「春日赤童子」の像などが、それぞれの町や村の講社の本尊として伝えられてきています。 今月16日まで奈良国立博物館で行われている特別陳列「おん祭りと春日信仰の美術」では、博物館所蔵のものの他に、それぞれの町の所有する春日曼陀羅なども陳列されています。東城戸町所有の「春日宮曼荼羅」は16~17世紀の作品で、通常は博物館に「寄託」されていますが、1月11日の「春日講」の際には町役員が持ち帰り会所に掲げて礼拝を行います。そのため上記の展示では、前半のみの陳列となり、代わって後半では西城戸町の「春日鹿曼荼羅」が陳列されます。↓の写真は、会所の床の間に掲げられた「春日宮曼荼羅」の様子。お酒と灯明が上げられて、二礼二拍手で礼拝した後、一同で昆布とスルメをつまみながら御神酒をいただきます。(その後、氏神の御霊神社へ参拝・祈祷、さらに春日大社で御祈祷を受けて町内各戸分の神符を持ち帰る) 宮曼荼羅では、春日山の上に春日の五神(本殿のタケミカヅチ、フツツヌシ、アメノコヤネ、ヒメカミ、若宮のアメノオシクモネ)が、本地仏の姿で描かれています。↓ (タケミカヅチについては釈迦如来とするものと不空羂索観音(興福寺南円堂本尊)とするものとがありますが、他は順に薬師如来、地蔵菩薩、十一面観音、文殊菩薩とされることが多い)曼陀羅の中程には、春日大社の本殿・回廊や、御間道を隔てた若宮社、さらに参道途中の着到殿、祓戸社などが鳥瞰図としてかなり写実的に描かれています。そして、裾の方では一の鳥居と、現在は奈良博前に基壇が残る東西二つの「春日の塔」が描かれています。この宮曼荼羅は、一回り大きい「南市町自治会」所有の春日宮曼荼羅(重文指定)と同系統のデザインですが、やや不鮮明な部分があるのと推定製作年代に幅があるためか文化財指定はされていません。しかし奈良の「まち」のあちらこちらで、このような貴重な資産を伝え、それが「現役」であるということは大いに語られるべきでしょう。