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2005.01.10
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カテゴリ:FILM / BOOK
sweet sixteen
"Sweet sixteen" Ken Loach 2002


イギリスを代表する映画監督といえばマイク・リーとケン・ローチだと信じて疑わない私ですが、まさか休日の夜7時というホゲホゲタイムにケン・ローチの最新作をスカパーで見るとは思っていませんでした。やるなスカパー、それもシネフィル・イマジカじゃなくてムービープラスというあたり。なんといってもタイトル「Sweet Sixteen(スウィート・シックスティーン)」で、なおかつスカパーの7時台なわけで、こりゃ「胸キュン思春期のホルモン映画」を普通期待するもんです。何も考えずスカスカのハリウッドエンターティメントを堪能することで、来たる激務ウィークに備えるというのが週末の習慣である私とダンナは、共に事前知識ナシでアルコール少量摂取済みという万全の体勢でリビングルームの陣地を守り固め挑んだ、スウィート・シックスティーン、夢見る16歳。しかしながら映画が始まり、微妙に「こ、これは英語か?」と20分の1くらい聞き取れる英単語モドキと特徴あるアクセントがぶっきらぼうに抑揚無くポツリポツリと流れる画面はこれまた灰色の小汚い気落ちするような日常の絵にならない光景、あちゃースコッティッシュのワーキングクラス映画かい、こりゃ字幕必須よねなんてごちていた矢先に画面に表示される監督ケン・ローチの文字。無言ながらも私とダンナの脳裏には「覚悟」という意思がみなぎったのは言うまでもない。


ドラッグディーラーとしてリスキーなロウライフを送る典型的ルーザーの父親と祖父と共に住み、母親は刑務所で服役中、学校も9ヶ月前から行くことを辞め、ヤク中の父親に育てられた同じように落ちこぼれの親友と日々煙草を売り歩き小銭をかせぐ毎日、そんな普通の15歳の少年がこの映画の主人公だ。人は皆生れ落ちた環境でまずサバイバルを強いられる、これは万国共通。しかし豊かな先進国の貧困ほど正義道徳良識善意の表層に隠蔽され、かつ資本主義の魔力に支配されているが故に救いがたいと思うのは私だけか?生殺し状態、出口なし。服役中の妻にさえ刑務所内でのドラック販売を平然と強要するような父親&祖父を嫌悪し母親への恋慕を募らせる少年は、しかしサバイバルの手段として、「ここ」から抜け出すために、愛しい母親を父から救うために、金がなきゃ始まらないという資本主義社会の一員として、いともたやすく麻薬販売に手を染めるのであった。ただ単にヤク中がディーラーを始めるというのではなくて、むしろ「できることならリセットしたい」劣悪環境の根源としてのドラッグを嫌悪する本人が「それ」を金稼ぎのツールとして選択してしまうのがもう既に相当に絶望的だ。当然のように地元ヤクザとの関わりを持ち始め、現金回収ビジネスゆえの分厚い札束の権威に己を見失い(ああ、典型的なヌーボーリッチ成り上がりメンタリティ)、挙句の果てに手に負えない唯一の親友を裏切り、手にした「アチラ側の生活」とやらは果たして彼の本来の目的であった母親と姉と彼女の子供と平和に暮らすという、根源としての彼の純真さとはあまりにかけ離れていないか?答えは簡単にあっけなくこの映画のクライマックスで展開される。ラストシーンでの少年atちっとも美しくないビーチ。携帯電話の向こうから聞こえる姉の声は響くI love youと。しかし少年は声に出して答えることができない。そこでやり直すことなど不可能な現実の重みと怒りと悲しみと家族への変わらぬ慈しみを抱え迎える16歳の誕生日。現実は残酷だ、けれど逃げ出すことはできない。理性や教義や道徳や良識がひとつでも救いとなりえたのだろうか?答えは明らにそこにある。

マイク・リーの作品やアラン・パーカーの「コミットメント」なんかだと、厳しい現実はちっとも変わんないけど、ささやかな希望は確かにそこにある(あった)よね、という痛みを伴うポジティブさ、といった泣き笑いしたくなるような爽快さがあるのだけど、ケン・ローチはそこんとこ超現実派というか殆んどハードコアです、挑戦的。笑いも怒りも悲しみもナシ。ただただやりきれない出口ナシの絶望感だけが目の前に広がるのを途方に暮れて見つめるのみ。





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Last updated  2005.01.10 22:18:14
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