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ピアノ調律師の日々

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2022.02.26
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福田ひかりさんのCD作品 "J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲” のライナーノーツに書かせていただいたことをここで紹介したい。
決して気を衒ったわけではないが、現在のベヒシュタインのピッチを通常よりも低くし、不等分平均律の調律システムで行ったことで、ポリフォニーの旋律、特に内声の抑揚感、ヴァリエーションのコントラストがとても魅力的な録音作品に仕上がったと聴けば聴くほど味わい深さを感じている。
例えば、Variation 21 alla Settima と次の Variartion 22 alla breveは日陰から日向に出た時に感じるような空気感の変化を私は響の中に感じる。


CD ライナーノーツより
不等分平均律について

 バッハの作品で平均律クラヴィーア曲集と呼ばれる作品がある。が、ここでいう平均律は現代意味する平均律とは少し異なる。原題のDas Wohltemperierte Clavier を訳せば、程よく分配された、とか、程よく調整されたとなる。平均律とは原題には表現されていない。この時代まで一般的に用いられた調律法ミーントーンは、3度音程を純正に響かせる考えに基づいている。まず、5度と3度の純正音程のずれを簡単に計算したい。Cからスタートし5度をGD A Eと4つ重ねるとCから2オクターブ高いe1ができる。この場合、5度を純正音程の周波数比で重ねていくと 1 x 3/2 x 3/2 x 3/2 x 3/2 = 81/16 となる。すなわち、Cの音の高さが1だとすると、純正5度を重ねてできた2オクターブ高いe1の音の高さは81/16になる。このe1Cと同じオクターブ内に持ってくる。オクターブの音程比は2/1なのでEの音の高さへ2オクターブ下げると81/16 x 1/2 x 1/2 = 81/64 になる。純正長3度の音程比は5/4だが、この音程を先の81/64の分母に通分すると80/64になる。純正5度を4回重ねてできる長3度は純正長3度より81/80広がった長3度になり、純正に調和しないことになる。純正でない長3度の唸りは音が持続して伸びるオルガンのような楽器の場合特に耳ざわりで、唸りが多いと不協和音程のような感覚すら覚える。従って、長3度を純正にすることを優先し、狭くした5度を重ねるミーントーンという調律法が生まれた。

 純正3度を得るために狭くする5度の音程比を計算してみる。音程比X4回積み上げると2オクターブ高い長35/4 x 2 x 2=5が生じる、故に X4=5  X=4√5 =1.495349となる(純正5度は3/2=1.5)。この音程比1.4953495度でCを基準に♯側、♭側に重ねていくと最後の完結するべき5度が純正5度の1.5よりもかなり広い、音楽的には使い物にならない汚い5度ができる。これをウルフという。このウルフを挟む和音は、純正音程の3度にも、不協和な唸りが生じ、音楽的に使い物にならない。よって、使用できる調性は限定される。バッハは、12音の中の5つの5度に狭い5度を作ることで、ここにシントニックコンマを分配し、残りの7つの5度を純正にすることにより、ミーントーンを不等分な平均律に整えた。これを、バッハの言うDas Wohltemperierte(程よく分配された調律)、と考えて良いだろう。調律システムのベースが先に述べたミーントーンにあるので、白鍵のC-G, G-D, D-A, A-E, E-H, 5度を狭くすると、♯、♭の少ない調合の和音の3度の唸りが少なく、♯、♭が多い調の3度の唸りが多くなる。この3度の唸りの多さが一定でないことと、純正と狭い唸りを持つ5つの5度の存在も、調によって異なったハーモニーの雰囲気を作る要因になる。興味深い効果に、短調と長調の相互の転調の際の響きの変化がある。例えば、C Durが短調に転調した際、 平行調のa mollと同主調のc mollでは響きの性格が正反対になる。G Durの場合も同様の平行調のe mollと同主調のg mollでは同様の効果になる。主音と第3度音の短3度の唸りの多さが対照的で、3度音程の唸りの多さによって響きの持つ世界観が変化するのがわかる。これは、例えばa moll c mollの場合、短3度の幅はa-cが平均律より広いに対し、c-esは平均律より狭くなる。短3度は平均律の場合、純正よりも狭くて唸りが発生しているので、我々の耳になれた平均律と比較した場合、a molla-cは純粋な響きに近く、c mollc-esには痛みすら感じる短3度の唸りが生じ、独特な短調の響きが生まれている。このように、さまざまな調で異なる3度系和音の唸りの多さが異なることで和声的な性格が生まれ、旋律的な側面では、純正5度と狭い5度の違いから音階の幅が調によって異なることになり、旋律の流れから受ける印象にも若干の差異が感じられる。

ピッチc1=256Hzについて

 一般的に現在のコンサートピッチはa1=442Hzで、c1はおおよそ262.8Hzになる。

 現代ピッチがバロック時代、またその後の古典派時代のピッチよりもずいぶん上がった理由に、音量(音の力)の追求がある。しかし、バロックや古典のピアノでの演奏にそれが必要なのか、は長い間疑問だった。チェンバロではa1=415Hzが、フォルテピアノもa1=430Hz程度のピッチが一般的だ。しかし、現代のピアノはそもそも440Hzを前提に設計されているので、鋼鉄弦の弾性限界からの張力比が音響的に適切でなくなるような大きなピッチダウンはネガティブな効果を強調してしまう。ある日偶然、現代のコンサートピッチよりもc1でおおよそ6.Hz低いc1=256Hz で調律されたモダンピアノの映像データを視聴することがあった。この映像データでは特に、バリトン、バスの声部が朗々と聴こえ、ポリフォニーの響きの感じ方が魅力的だった。福田さんに私がこの映像から感じたことをお話し、録音の事前に福田さん所有のクラヴィコードと、録音で使用予定のピアノで試奏していただいた結果、ピッチをc1=256Hzに下げて行うことになった。

 音響的な効果としては、同じ弦で周波数が下がることになるので、弦のインハーモニシティーの影響から倍音のずれ幅が大きくなり、揺らぎの成分がより目立つ。同時に、弦と楽器全体にかかるテンションが低下することで、倍音の持続バランスも変化し、その結果、中音・低音の響きの具合が高音域に対し和らいだ印象を受ける。

 不等分平均律とピッチの低下との組み合わせにより、響きにもたらす効果はさらに興味深くなった。






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最終更新日  2022.02.26 11:18:50
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