魚がおよぐ日
海のある街に長く住んでいるというのに、 なぜかこの街では潮の香りを感じることがあまりない。 大型船の石油のにおいがするほうが、 何となくこの街の海に似合っていると私は思う。 風が運んでくる湿った空気の中に潮の香りを感じると、 「ああ、私は海のある街に住んでいるのだ」と思い出す。 学生時代、祖母の家に向かう坂をのぼりながら、 遠くに見える外国船とクレーンの並ぶ臨海地区の光景が好きだった。 薄ぼけた空色の空間にゆっくりと吸い込まれていく煙は軽いのか重いのか。 港に浮かぶ巨大な船は動いているのか泊まっているのか。 滑るように空をゆく、白い羽を持たぬ鳥の名はいったいなんというのだろうか。 そんなことを考えながら、学校帰りの道を進むと次第に人影がまばらになる。 洋館の脇にある大きな木の下の柵に寄りかかって港全体を見下して、 変わらない風景を記憶のどこかに刻み込む作業を繰り返すことが 私の学生時代の日課のひとつだった。 思い出が積み重なって私を創った。 忘れたはずの出来事も、ぼやけてしまった光景も、 今なら私ははっきりと思い出すことができる。 アルバムのページを一枚、また一枚とめくるように。 そして、モノクロームの写真にも色をつける作業を続けるように 私は人生を過ごそうと思う。 思い出は、若葉が息吹く様子をスローモーションで見るように動き出す。 * * * お久しぶりでございます。 こんな感じで始まるお話をただ今書いております。 続きを公開するのはいつになるか・・・それは私にも判りません^^;