「ルツの要求」
甲斐慎一郎
ルツ記、3章
「ナオミは、なお注意深く考えて新たな決心をしました。彼女は
二か月の間、ルツが少しも意識することなく、このような不幸な境
遇にあっても、たぐいまれな謙遜と柔和さを示していることを見て
来ました。もしナオミがルツのまれに見る性質を認めることができ
たとするならば、毎日彼女に会っているボアズが、どうしてこれを
認めない理由があるでしょうか。またルツもイスラエルにおいて初
めて自分を慰め、懇切に語ってくれた人が、敬虔で、かつ親切であ
ることを認めざるを得ませんでした」(A・イーダーシャイム)。
一、ナオミのことばどおりに打ち場に行き、ボアズに保護と
贖いを求めたルツ(1~9節)
ナオミは、ルツが身の落ち着く所を得て、しあわせになるために、
彼女に晴れ着をまとい、打ち場に下って行き、寝ているボアズの足
のところをまくって、そこに寝るように言いました(1~4節)。
ルツは「しゅうとめが命じたすべてのことをし」ました(6節)。
「親戚の者の上衣の一部を引いて掛けるのは、保護と贖いを要求
する正当な方法であったので、ルツは大いなる遠慮と注意とをもっ
てこの事をした」のです(イギリスのある注解者)。これは当時の
ユダヤの風俗習慣として行われていたことですから、ルツのしたこ
とは、礼儀に反した行為ではありません。ナオミは、亡夫エリメレ
クの所有地を買い戻してもらうために(レビ25章25節)、また死
んだ息子マフロンの名をその相続地に起こすために(4章5節、申
命25章5、6節)、買い戻しの権利のある親類のひとりであるボ
アズのもとにルツを行かせました。
このように「ナオミが嫁のルツを真のイスラエル人であると認め、
そのために身の落ち着く所をボアズの家に求めたのは、神の明らか
な導きによるものであり、これは自然のなりゆきです」(A・イー
ダーシャイム)。
二、ルツの願いどおりにエリメレクの土地を買い戻すことを
約束したボアズ(10~15節)
ボアズは、夜中になって、ひとりの女が自分の足のところに寝て
いることに気づき、びっくりして起き直りました(8節)。当時の
ユダヤの風俗習慣として行われていたこととはいえ、ルツの話を聞
く前ですから、彼が驚いたのも当然でしょう。
しかしボアズは、ルツの謙虚な態度で語る率直な願いを聞くと、
「ルツのしたことは、決して奇異なことでも不義でもなく、かえっ
て以前に称賛を受けたことよりも、さらに称賛に値するものである
ことを認めたのです」(A・イーダーシャイム)。
ボアズは、ルツの頼みを快く引き受けました(11節)。ただし彼
は、自分よりももっと近い買い戻しの権利のある親類がいるので、
その人がその権利を放棄するなら、「私があなたを買い戻します」
(13節)と、条件を付けて約束しました。
おそらくボアズはルツに心をひかれ、すぐにでも妻にしたかった
ことでしょう。しかし彼は情に流されず、どこまでも合法的に対処
しようとした清廉潔白な人でした。それでボアズは、人々の誤解を
招かないために、ひそかに彼女を帰しました。しかし彼は、約束の
しるしとして大麦六杯という贈り物を彼女に与えることを忘れませ
んでした(14、15節)。
三、ナオミの所へ帰り、ボアズが自分にしたことをみな彼女
に告げたルツ(16~18節)
ナオミは、ルツが自分に告げたすべてのことを聞き、また彼女が
持ち帰った大麦六杯を見て、確かな手答えがあると感じたのではな
いでしょうか。それでナオミはルツに、期待して待つように言った
のです(18節)。
先の2章は、主がナオミとルツに豊かな祝福を与えるために彼女
たちを導かれたことを教えていましたが、この3章は、主の豊かな
祝福を受けるためには、それを大胆に求めなければならないことを
教えているのです。
拙著「士師とサムエルの生涯」31「ルツの要求」より転載