女神のレシピ

□女性の権利を守る女神□

女性の中にはいろいろな面がある。
女
職業婦人
母親
恋する乙女
娘・・・

そのことはヘラについても言えることだ。
彼女を象徴することばは女性視点では「女性の権利を実現する人」であり、
男性視点では「嫉妬深い目の上のこぶ」。
だから、男たちには「いなくては困る」が
彼女が女性であることすら時々忘れるようだ。
なぜかヘラは女として魅力を損なうことがある。

ヘラとアテナ、アフロディテがギリシャの三美神と讃えられたが、
中でも人気においてダントツなのはアフロディテだ。
彼女は女性には「淫乱」と嫉妬されたが男性には「永遠のマドンナ」であった。
頭の回転は速く、仕事がよくデキ、
それでいて優しく、色っぽくいつも美しさに輝いていた。

アフロディテは女性であることの特徴
「愛される」ということにおいて男性の懐に入っていったが、
ヘラは妻の座を守り抜くことによって、男性と渡り合った。

ヘパイトスは威厳を放つ貞淑な母を誇りに思っていた。
婦人とはあのようにあるべきだし、
彼女の言い分を、男たちは素直な気持ちで耳を傾けてみるといい。
そしたら世の中に戦争というものが
ひょっとしてなくなるのかもしれないとさえ考えていたのだ。

男は男の務めを果たせばいいし、女も自分の務めを果たすならば、
いろいろな要求をしたとしても罪ではあるまい。
男の身勝手さや動物的な荒々しさを抑える術を知るには、
母のような厳格さが、男には必要なのだ。

ヘラにとっては皮肉なことに
捨てたわが子が、自分の立場を正当に評価してくれる理解者なのだった。
もちろん彼女は、男の狼藉に被害を受けて
不遇をかこつ世の女性たちの絶大な支持を受けていた。

ただ残念なことに
良家の女たちは勝手に外を出歩くことさえできなかったから、
その意見を交換することもできなかった。
不満は閉じ込めるしかないのだ。
ただただ、洗濯、お料理、そうじを黙々と行うのみで、
女が創作的な美術に明け暮れることもできない。
ヘラの神殿をあちこちに建設することもできないのだ。

時には夫の不埒を戒め常軌に修正し、
戦闘開始のときや話し合いがこじれたときの激昂を落ち着かせた。
そして何よりも夫以外の男性には性的な欲望をシャットアウトできることが、
彼女の美徳である。

彼女は使命感に支えられ励まされていた。
夫の財産、国の繁栄と発展を願い豊穣なるものを保全し、
領民に幸福を提供することは彼女の使命以外の何ものでもない。

彼女がヘパイトスを捨てたのは、
その反対側にいる美しい息子アレースの、
「粗暴さ」という自分が忌み嫌う性格を捨てたに等しかった。

ヘパイトスとともにいるとき、アレースはもっとも美しい「男」なのだ。


■解説■
夫に抱かれるとき以外のヘラにはいつも仲良くしている黄体ホルモンがありました。
それはプロゲステロンです。
元来は男性ホルモンですが、テストステロンを抑える役割を担います。
プロゲステロンを投与すると性欲がなくなり、去勢できるのです。適量を使用することによって鎮静薬となり、多量使用で麻酔剤となりすべての感覚を奪います。
性欲を抑え母としての防衛力を高めるのですね。男性にありがた迷惑なホルモンだといえます。
性犯罪者、避妊、更年期障害、鎮痛薬として有効です。
セックスを良くすることになんら期待できないホルモンですが、実際には必要不可欠なものです。


ヘラのような女性、聞いたことがありますよね。
強い奥さん連中ももちろんですが、そうです。フェミニストたちはヘラの生まれ変わりなのだと思えます。
今に残る彫刻や文献もそうですが、殆どが男性の手になるものです。
男性が目の上のこぶを嫌って「嫉妬深い女」としてヘラを表現したことは、実際はちょっと違うんじゃないかな～と思うのですが・・・神話を解釈するときにそのあたりの事情も汲んで欲しいものです。
力の弱い女性の権利を守る守護神です。

参考『愛は脳内物質が決める』テレサ・クレンショー著

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