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2014年04月29日
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カテゴリ:詩歌

 

ある晴れた日に第229回

 

 

渋谷には、行ってはならない。

とりわけ渋谷の地下に降りてはならない。

 

行ってはならぬといいながら、私は渋谷に近づいてゆく。

どんどんじゃんじゃん近づいていく。

 

JRのすぐ傍にかつて東横線があり、東横線の下には東急のれん街があった。

ある日私がのれん街を足早に歩いていると、どういう風の吹きまわしだか

誰かの髪の毛を覆っていたネットの細かい糸が、私の上着の右のボタンに絡んでしまった。

 

いったいどうしてそんなことになったのか、どうしてそんなことがあり得たのか、いま考えても不思議で仕方がないのだが、実際にそれは起こってしまったのだ。

 

「アイタタタ、イタタタ」という悲鳴に、私がその声の主の傾いた顔を見ると、知り合いの広告会社のおばさんだった。

ちょっと狆のような顔をした私の苦手な粘液質タイプの営業ウーマンだった。

 

私が懸命にネットとボタンのもつれを解消しようと悪戦苦闘している間も、

おばさんは「アイタタタアイタタ」と悲鳴を上げていたから、

よっぽど痛かったのだろう。

 

やっとこさっとこもつれにもつれた黒い糸を取り外すことに成功した私が、改めて彼女に「申し訳なかった」と詫びていると、狆顔のおばさんはわが社に営業に来る時とはうって変わった怒りに満ち満ちた凄い顔付きになって、挨拶もせずにJRの通路の方へ立ち去った。

 

おそらく、私がどこの誰だか、気が付きもしなかったろう。

一人暮らしの彼女が強盗に押し入られ、殺されたと聞いたのは、それからまもなくのことだった。

 

渋谷には、行ってはならない。

とりわけ渋谷の地下に降りてはならない。

 

行ってはならぬといいながら、私は渋谷に近づいてゆく。

どんどんじゃんじゃん近づいていく。

 

渋谷の地下へ降りてゆけば、すぐさま西も東も分からなくなる。

たちまち自分が自分でなくなってしまうのだ。

 

地下には真昼間でも誰もいない。そのかわりにいつでも見えない亡霊のようなものがいて、君のすぐ傍を歩いている。

 

亡霊のようなものの数は、夕方になるとどんどん増加して、夜ともなれば暗闇の中で、うじゃうじゃしている。三々五々相当不気味な会話を交わしている。

 

われ亡霊に語れば かれまたわれに答う

われ亡霊に微笑めば かれもまたわれに微笑む

われ亡霊に近づけば かれまたわれに近し

かくて日一日刻一刻とわれらが再会の時近づきぬ

 

渋谷には、行ってはならない。

とりわけ渋谷の地下に降りてはならない。

 

行ってはならぬといいながら、私は渋谷に近づいてゆく。

どんどんじゃんじゃん近づいていく。

 

 

なにゆえに心かくは羞じらう心は七彩のアジサイの花ゆえに 蝶人

 






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Last updated  2014年04月29日 10時25分30秒
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