「Rudolf Serkin plays Beethoven11CD」を聴いて
音楽千夜一夜第329回 ルドルフ・ゼルキンが弾いたベートーヴェンの5つの協奏曲と全曲に近いソナタを収めたお馴染みの激安セットですが、どのCDもすこぶる聴きごたえがあります。 ゼルキンという人は「謹厳実直」を絵にかいたようなピアニストで、ひとつひとつのスコアを舐めるように丁寧に丁寧に音に変えてゆく。 だからホロヴィッツの豪胆さやギレリスの鋭さ、アルゲリッチの輝かしい生命力などはないけれど、その誠実無比なピアノを聴くほどに偉大なる楽聖の音楽への献身にうたれ、思わず背筋を伸ばし、居ずまいをただしてしまうような、まあそんな演奏なのですね。 ですからこの11枚は、「もうベトちゃんなんかにゃあ飽きた」とか、「あれはもう古すぎる時代の終わった音楽じゃ」とか嘯いている人が聴くと、うってつけなのではないでしょうか。 誰ひとり観客のいない寂しい広場で、誰のためにでもなく、楽聖ベートーヴェンに捧げるために、ひとりのおじいさんがコツコツと演奏している。 そんな光景が浮かびあがってくるような、これぞクラシックの原点!というような極め付きの演奏です。 なにゆえにピレシュは右腕に刺青しているのかショパンよりそっちが気になる 蝶人