泥染めの模様とシャーマン
周囲にぐるりと描かれている模様は何に見えるだろうか。蛇の模様に見えるだろうか。シピボ族の泥染め特有のこの幾何学模様について、「模様が意味しているものは?」と質問されることが多い。同じ質問を、実際に泥染めを描いているシピボ族の女性らに投げかけるが、応えはいつも同じだ。「特に模様に意味はない。ただ、頭に浮かんでくるデザインを書き写しているだけ。天からデザインが降り下りてくる。」しかし、部分的には「へび(周囲を囲んでいる模様)」「ピラニアの歯(ギザギザ)」「亀の甲羅」などと言う場合もある。また、最近では、「デザインはすべて意味が読み取れるようになっていて、デザインを読み取りながら歌を奏でられる」なんていう話になってたりする。このことは、私はたまたまペルーの一流新聞の文化面に写真入りでシピボ女性と布が載ったのを読んだことがあり、シピボのスタッフに「このヒト知ってる?」と聞いたら親族だった。(といっても、集落の人ぜんぶが遠い親戚なんだけど)彼女はアメリカなど海外に行って泥染め実演をするなどして、バリバリに稼いでいるという。シャーマンでもあるため、インタビュー記事の内容はミステリアスで興味深くもあった。ずっとこの記事(数年前の新聞)のことが気になって、確かめたいと思っていたら、去年現地へ行った際に、同じボートに乗り合わせた。新聞には写真も載ったのでよく覚えていた。一緒にいたテレサが親しげに話し始めたので「あの人は**さんでしょ?ちょっとインタビューしたいんだけどいいかな?」と聞いてから話しかけた。どきどきした。「新聞であなたの記事を見ました!」「デザインにはすべて意味が含まれ、読み取ることができるというのは本当ですか?」「確かにそう言ったけど、デザインを読み取れるというのはウソ。」と澄ましていた。「泥染めを売る際にデザインを読みとるように歌(イカロ)を歌うと喜ばれ良く売れる」と嬉しそうに言った。そういうウソを新聞で発表しちゃいけない。皆が信じてしまい、その嘘の説明がどんどん広がり定着してしまう。とても危険・・・。しかし、彼らにとって、そんなことはどうでもいいらしかった。彼女にとっては、布が売れれば、いいのだった。買ってくれるお客さまが喜んでくれれることが何よりなのだ。それは、商売の世界では、あたりまえのサービスだったりするのだろうか????実際に、観光客にウケル、ということで、通常は祈祷の際にしか聴くことのないシャーマンの歌(イカロ)を歌いながら布にデザインを描くというのをやってみせるというのを、マネをしてやっている者もいるとか。なんともかんとも。しかし。まんざら全てが嘘ではないらしい。テレサは幼い少女の頃の記憶であるが、自分のおばあちゃんは、泥染めのデザインを描く際に、いつも、呟くように歌(イカロ)を歌っていたという。相当集中していて、子供に話しかけると集中力が途切れるからといって、うんと怒られたのだという。この泥染めのデザインは、あまりに奥が深い。アマゾンのシャーマンが治療のためにつかう「アヤワスカ」は様々な幻覚を見せるが、この不思議な幾何学模様が色鮮やかに映し出されることが多いようだ。しかし、泥染めを描くシピボ族の女性たちはアヤワスカ未経験の者が多い。つまりこのデザインを描けることはアヤワスカによる力ではない。あの模様の説明はできない。私の持論だけど、これはシピボ族の一部の女性に宿る「潜在能力」で、太鼓の昔から脳内に刻み込まれたもの、DNAに含まれ受け継がれているもの・・・・。太古の森から発信される、奥深いメッセージなのではないのか。それは、いつか、解読できるようなものなのかもしれない、かも、かも・・・・。一方で、シピボ族の人々が信じている「デザイン能力の伝承」についても興味深い。それはまたの機会に。