われらが歌う時
最初に悲しいのが、上下巻のこちらの本、高すぎます上下巻ともに、3,360円て! 売る気ないの?(涙)というのも、この本は多くの人に読まれるべきだと切に切に思うからなわけですよ。本当に素晴らしい小説でした。私はいわゆる経験至上主義な物言いのひとがとても好きではありません。嫌い、というよりは、それを出してきた時点で話は傾聴するけれども悪い言い方をすれば一段低くみてしまいます。具体的に言うと、「これは経験してみないと分からない」という言い草です。「この病気は体験した人にしかわからない」「子供を生んでみないと分からない」「働いてみないと分からない」こういったやつ。周りに必ずいるのでは?というか、自分自身生涯で一度も言ったことがないっていう人はなかなかいないのでは?と思います。訳者の高吉一郎さんはあとがきで、アメリカにおける人種差別について「アメリカ人でなければ分からない」というような考え方を都合のいい諦念とし、それを破壊するのがパワーズの作品であると言っています。これについては本当に納得。表現形態は小説に限らず、あらゆるすぐれた芸術がその「都合のいい諦念」を打ち破るものだと私は信じています。この本はアメリカの人種差別における悲しい歴史ではありますが、オバマ大統領という未来への(この本がアメリカで発売されたのは2003年)物語だということを今読む人誰もが思うことでしょう。こういった、結果として近未来の予測になる小説というのもすぐれた作品にはよくある現象ですよね。もう一つ忘れてはいけないのが、音楽性。ものがたりの最後、私が涙ぐむ箇所があるのですが、ストーリーラインに涙が出たのではなく音楽に感動して出した涙でした。こんな経験ははじめてです。これは経験しないと、分からないですよ(!笑)ついツメツメ文字で書いてしまうほどの感動でしたわれらが歌う時(上) リチャード・パワーズ:著 3,360 円 われらが歌う時(下) リチャード・パワーズ:著 3,360 円