女の子とウサギ
わたしは、小さな家にいた。借家で、築何十年だろう。玄関は引き戸で、入ったところに小さな土間があり、たたきをあがると4畳半の和室。正面に、一間半もの押入れがある。玄関から見て左手に、続き間で6畳の和室がある。和室の左手奥は、カーテンのかかった掃きだし窓だ。台所やお手洗いは、2間続きの四畳半の奥にあるのだと思われた。小さな家、たぶん大きな家をいくつかにわけて借家にしている、長屋のようだと見えた。小さいわりに、しっかり作られた部分もあるからだ。情景を、リアルにはっきりと、覚えている。不思議な夢だ。わたしは、四畳半の玄関の近くの、出窓になっている腰高窓にもたれかけて、小さな女の子と会話していた。女の子は8~9歳くらい。つややかな薄い髪を丸いオカッパ頭にしている。どこにでもいるような子ども。女の子の弟が、足元に丸くなって、ミニカーか何かで遊んでいる。もう少し小さくて、5~6歳くらいだ。6畳の部屋と4畳半の部屋にまたがって、こたつがおいてあり、モサモサした30代の男たちが囲み、マージャンをしていた。部屋はタバコの煙でかすんでいた。オトコタチの和やかではあるが大きな声が、小さな家に響いて、柱や窓に共鳴する。お酒もはいっているんだろう。女の子は、わたしのスカートをつかみ、なにやら話をしている。自分の話を聞いてもらえれば安心するのだということを、わたしは知っているので、内容よりも、テキトウに【聞く】ことに意識を向ける。女の子が満足そうなので、わたしも満足している。ふと、出窓の向こうが薄暗くなっていることに気がつく。みんな晩御飯はどうするんだろう。こどもたちは。【今日は、お正月だっていうのに】と、思い至って、この家の荒廃ぶりに気がつく。父親は、正月だからと【タクシー運転手仲間(そういうことらしい)】と、マージャン。こどもたちは、正月らしいことが何一つ味わうことができていない。【わたしが踏み入っていいのはどこまでなのか】【結婚しているわけでもないのに(付き合っているヒトらしい)】もう、こんな時間だ。こどもたちもだが、おとなたちも不憫だった。お正月の晩に、何を食べようと考えているのだろう。この時間から…わたしに、お正月らしい何かを用意することもできない。【カレーを食べよっか】と、わたしは小さく、女の子に声をかけた。きょとんとしている。自分が【食べたい】と、何かを欲するコトバをだしたことがない様子だ。父親であるオトコに、声をかける。少し大きな声で。【カレーを食べよっか】わたしも、おどおどしている。この家で、わたしが、何かをしようと提案していいのだろうか。気を取り直して、もう一度声をかける。【みんなで食べられるし、美味しいし、ね。子どもたちも好きだし。】そう言うと、オトコは、トモダチにどうするか声をかけだした。案の定、みな、とくに食事のあてがあるわけじゃないみたいだ。女の子が喜ぶと思っていたが、案外静かだ。どうしたのか、と様子をチラッとうかがった。固く、うつむいている。目はうつろだ。オトコが【あぁ、この間、ウサギが死んだから】と向こうの部屋から言った。【うさぎ?】わたしは、【玄関の土間と床下で、女の子がウサギを飼っていたことを思い出した。】【死んじゃったの。。。】そう声をかけると、女の子は跳ねたように勢いよく押入れに向かって駆けてゆき、固い、B5サイズの茶封筒を持ってきた。茶封筒の折りたたんだ口を開くと、自分の手のひらに、中身をさらさらと出した。灰色の小石のようだった。【ウサギ、死んだの】まだ、ショックが強い、固い声だった。灰色の小石は、ウサギの骨だった。うさぎの死のショックで、【肉を食べることが、できなくなっているのだろうか。】【料理はどうしたらいいのだろう】女の子を慰めるより先に、そんなことが思い浮かんだ。もとより、慰めると言っても、どうやっていいのかわからない。オトコのトモダチが、大きく咳払いをした。わたしは、まだ、動けないままだった。Blogならclick!写真ならclick!