カテゴリ:Night
確か中学の教科書に載っていた話だと思う。
ある作家が知人を介してケニアからの留学生と交流を持つのだが、その留学生が帰国する日が近づいてきた。 最後に喫茶店で留学生に会っていた作家の頭の中には、「一期一会」という言葉がしきりと頭に浮かんでいた。こんな時に不吉な、と思うのだが、どうしても消えない。 その一方で、留学生への別れの言葉を決めかねていた。 また会いたいと思っているのだが、それをそのまま口にするのは軽すぎるような気がしていた。 いよいよ別れの時、作家は友人に向かって 「日本には『一期一会』という言葉があるが、私はまた会いたい、と伝えてください」 (その留学生は日本語ができず、友人が通訳をしていた) その言葉を黙って聞いていた留学生は、ノートにこんなケニアのことわざを書いた。 山と山、会わず 人と人、会う 言葉の意味をはかりかねていた作家に、友人がこう言葉をかけた。 「山は動かないけど、人は動くことができるからね」 雨の午後、こんな話を思い出す。 そして、こんな言葉が頭に浮かんだ。 山と人も会うことができる。 ここに行けば山に会えるという場所があるから。 細かい雨粒が窓を濡らす。 部屋が暖まるにつれて窓に白い幕がかかり、その幕は雨粒の模様をゆっくり覆っていった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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