カテゴリ:Night
初めて路上教習に出たのは、仮免の試験に合格した数時間後だった。
その日は日曜日だったこともあって、合格後すぐに路上教習の予約を取ろうとしたけど、取れたのは夕方。ちょっと無愛想な教官にまずは車の状態のチェックの仕方を十分ほど習って、教習所の外へ車を出した。 驚いた。 アスファルトがこんなにでこぼこしていること。路面の凹凸がダイレクトにステアリングに伝わり、ステアリングの振動が僕の心臓を揺さぶる。心臓がきゅっと縮み、ステアリングを握る手、肩に知らずに力が入る。 薄暗くなりつつある道には街灯も遠くにあるように見え、ただ前を行く車の赤いランプだけが妙にはっきりと見えた。 そんな暗くでこぼこした道を走っていると、まるですぐに事故を起こしそうな気がして、気がついたらアクセルを踏む右足の力が緩む。その度に隣に座る教官が、もっとスピードを出せと、しゃがれた声で言う。 見慣れた道をぐるりと回っただけなのに、この時のことはほとんど憶えていない。 だけど、路上教習を重ねていくうちに凸凹の道にも暗い道にも慣れ、今ではほとんど対向車のない夜道ではどんどんアクセルを踏み、スピードメーターを見て慌ててアクセルを緩める。 今度卒業する4年生が、暇をもてあましたのか学校に顔を出した。 春からは遠く離れた専門学校に通う彼は、中学時代は不登校だったけど、3・4年生の時は皆勤で過ごした。多分、定時制のゆっくり流れる時間に合っていたのだろう、1年の時から彼を知る先生は入学したばかりの頃に比べて表情がよくなったと言っていた。 今日の彼は、4年間通った誇らしさをにじませつつも、どこか不安そうな影を纏っていた。 春からは、定時制とは全く違った環境で過ごすことになる。その時、ちゃんと自分を保てるのか、また逃げ出したくならないか、そんな不安が意識していなくても頭のどこかで蠢くのだろう。 「そんなに暇なら、教習所でも通ったらいいじゃん」 なぜか僕の口からこんな言葉が出ていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.03.03 00:56:03
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