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テーマ:中国茶好き集まって!(926)
カテゴリ:茶の種類・品種
さて、サントリーの烏龍茶に入っていた、武夷水仙とは何者か。
これを説明しようとすると、 武夷岩茶って何よ? ということを、定義しなければなりません。 この武夷岩茶という言葉の定義が少々難しい(^^;) 実は、狭義の武夷岩茶と広義の武夷岩茶の2パターンがあるのですが、これが混乱して使用されている&余計な伝説の尾ひれがついているので、岩茶は訳の分からないお茶になっているように感じています。 ・・・ええ、だから私も「キーッ」となって、岩茶を避けていたんですけど(苦笑) そんなわけで、今日は伝説をぶった切って、淡々と事実をご紹介してみます。 <正岩茶を武夷岩茶と定義する場合:狭義の武夷岩茶> お茶好きな方にとっては、武夷岩茶といえば、武夷山の岩の上で生育された、いわゆる正岩茶を指すと思います。 太古の時代は海だったという、ミネラル分を豊富に含んだ武夷山の岩。 茶樹にとっては、岩というのは生育に厳しい場所ですが、根をしっかりと張って、水や養分を岩から吸収します。 さらには、九曲渓という川が山の間を縫うように流れているため、湿度が高く、霧が発生しやすい気候です。 こうした独特の土壌と気候が、武夷岩茶の味を作るといわれています。 その独特の味わいが、”岩骨花香”と表現される”岩韻”です。 これこそが正統な武夷岩茶、いわゆる正岩茶なのですが、”正”岩茶と表記するからには、それ以外のお茶もあるわけです。 それが半岩茶と洲茶。 簡単に書くと・・・ 正岩茶は、武夷山市の中でも、いわゆる三坑二潤と呼ばれる場所で育てられたもの。ミネラルたっぷりな岩ばかりです。 半岩茶は、正岩茶に近い場所だけれども、九曲渓沿いの低地だったりで栽培されているもの。岩だけではなく、土になっているところもあります。 洲茶は、それよりも広い範囲。武夷山市内のお茶で、岩というよりは土の上で栽培されているお茶です。 これが、伝統的な生態(というか土壌)での武夷岩茶の分類です。 正岩茶の栽培できる範囲は、とても狭く、世界遺産に指定されている地域の中にあります。 さらに、伝統的に茶摘みは年1回の春のみです。 それを伝統製法だと、休ませながら秋まで焙煎を続けるのです。 どう考えても、生産量が限られています。 だから、需要が増えれば、どんどん高くなります。 そんなわけで、中国の経済成長に伴い、最近の岩茶の価格は急上昇しています。 そういう状況にある正岩茶は、ペットボトルにはまず入らないでしょうねぇ。。。 そうなると、 ペットボトルのお茶に入っている武夷水仙は何者か? ということになります。 そこでもう1つの基準が登場します。 中国の国家標準です。 <中国の国家標準で武夷岩茶を定義する場合:広義の武夷岩茶> 中国というのは、昨今の事件を見ていると、とてもいい加減な国家のように思われますが、実は細かなことまで規制でがんじがらめの国家です(問題は、そのチェック機能が、適切に機能していないことです) お茶の品質に関しても、国家が決めている国家標準というのがあります。 特に、産地呼称の問題もあるので銘茶については、お茶ごとに国家標準が作られています。 これ、武夷岩茶についても当然定められています。 その国家標準、2006年に改訂されたのですが、これを読むと、武夷岩茶は、このように定義されています。 #興味のある方は、GB/T 18745-2006 で、百度あたりで検索してみてください。 武夷山の独特な自然環境下で、適切に繁殖・栽培された茶樹の品種を用い、独特の伝統的な加工技術によって作られた、岩韻(岩骨花香)の特徴がある烏龍茶のこと。 だそうです。 武夷山で作られていて、品種が武夷岩茶のもので、作り方が正しくて、岩韻があることが、武夷岩茶であると定義されています。 このあと、どのくらいの間隔で植えるのかとか、剪定をどうするかとか、肥料はどうやるかとか、事細かに標準が規定されています。いやー、細かい(^^;) 生産地域についても、厳密に定義がなされていて、武夷山市の風景区(いわゆる世界遺産地域。およそ70平方キロメートル)を名岩産区、それ以外の武夷山市の地域を丹岩産区と区別しています。 この2つの地域以外から持ってきたら、それは武夷岩茶ではないということです。 逆にいうと、”武夷山市で作られているお茶は、条件を満たせば、全部、武夷岩茶になる”ということですね。 ちなみに武夷山市の面積は、武夷山市ホームページによれば2798平方キロメートル。 日本で言えば、神奈川県より広く、鳥取県より少し狭いぐらいの大きさです。 ・・・って、かなり広いんですけど(^^;) でも、考えてみましょう。 福建省北部のお茶と言われるよりも、武夷岩茶といわれたら、産地の範囲が狭いわけですから、より希少な茶葉なわけです。ええ、これは範囲の程度の問題です。 新潟産コシヒカリと魚沼産コシヒカリの違いのようなものです(正岩茶が南魚沼産てなとこですね)。 商売レベルで武夷岩茶を定義する際に使われるのは、もちろん広義の意味においてです。 ですので、現地で商売している人は、広義の意味において”本物”であることを主張すると思います。 ”岩韻弱ッ”と思っても、国家基準をクリアしていれば、武夷岩茶には違いありません。 そういう国家標準が存在するからです。 そもそも、そうしないと量を確保できませんし、採算に乗りません。 また、そのようにして作られたお茶でも、丁寧に作られたものは、十分に美味しいと感じられます。 コストパフォーマンスの点で、優れているわけです。 しかし、日本側の消費者には、伝説の刷り込み?がありますので、狭義の意味の武夷岩茶こそが岩茶だと信じていたりします。 だから、「これは偽物の武夷岩茶!」と言い出す人が出てきたりします。 特に、お茶好きほどです。 もちろん、正岩茶100%の武夷岩茶も買えないことはありません。 しかし、そのためには正岩茶を栽培されている農家とのコネクションを強く持っていないと、いけないことになります。 そして、その稀少さに見合うだけの金額を積めるかどうかが全てを決します。要は「高い!」ということです。 たとえは悪いですが、茶農家・茶メーカーにとっては、正岩茶は”コーラの原液”に匹敵するほど、貴重なものです。 コーラは原液を水で薄めて出荷するように、正岩茶に他のお茶をブレンドして出荷すれば、岩韻のある正統な武夷岩茶として高い値で売れるからです。原液をそのまま出荷したら、農家はその分、儲ける機会(販売量)を失います。 その分を補償できるような金額で買い取らないと、経済原則的に「売るはずがない」のです。 どんなに親しい友人でも、販売できる量を大量に調達してあげるのは無理でしょう。 というわけで、安いのに”正岩茶”だの”岩の味が・・・”と販売していたら、「それって・・・」というのが私の感覚です。”武夷岩茶”だったら、広義の意味でOKなので問題ないのですが。 #ああ、また、お茶屋さんに嫌われるようなことを書いてしまった(汗) なお、水仙というのは品種の名前です。 私、個人的には、旨味の強い優れた品種だと思っています(^^) 元々の原産地は福建省の建陽県水吉大湖。 1722年に発見され、福建省北部に広く広まった品種で、武夷山にも清代に導入された品種です。 単位面積当たりの収量の多い品種でありながら、独特の香りと味わいの深さを持つため、いまや武夷山そして福建省北部(ミン北)の代表的な品種の1つになっています。 武夷山以外でとれる水仙は、ミン北水仙と呼ばれています。 水仙は、福建省北部以外でも、福建省南部(ミン南)、台湾などにも導入されています。 同じ品種でも、製茶の仕方が当地独自のやり方で、それぞれ違うので、結構混乱したりします(^^;) ※ちなみに鳳凰水仙種は、広東省原産なので、全く別物です。武夷山にも100年ほど前に外来品種として導入されています さて、まとめましょう。 今まで見てきた通り、武夷水仙というのは、2つの意味があるわけです。 マニアックな定義で言えば、武夷山の国家風景区の中の三坑二潤で作られている水仙種で、伝統製法で作られたもの。 商売に使用される定義で言えば、武夷山市内のどこかで作られた水仙種のお茶で、国家基準をクリアしたもの。 おそらく、ペットボトルに使用されるのは、後者のものだと思います。 でも、問題は自分にとって、美味しいかどうかです。 値段に見合う美味しさがあれば、万事OKです。 中国の法律にも触れていないですし。 私、サントリーの烏龍茶はそういう意味では、全然問題ないと思います(^^) 正岩茶だけで作られたお茶でなくても、品質の良いものは、十分美味しいのです。 もちろん、正岩茶で美味いのは、本当にひっくり返るほど美味しいんですけど(^^;) #残念ながら、目玉が飛び出るほど高いのです。陳年にするのにも向いているので、最近買い占めが起こっているそうです。プーアルの次は岩茶かもしれませんねぇ。。。 岩茶にお買い得品はありません お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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