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カテゴリ:お茶にかかわる本・雑誌
幕張メッセで開催されているFOODEX 2009に行ってきました。
世界的な不況の影響が出ているのでしょうねぇ。 試供品等の配布や過剰な装飾も少なく、人出も少なく感じました。 とはいえ、昨年よりも物見遊山の人たちが減っているので、ビジネスマッチングを目的としたイベントとしては、健全な方向に進んでいるのではないかと。 でも、お茶の観点で行くと、ブースでは目新しいこともなかったので割愛(←バッサリ) 収穫もなく帰るのもなんなので、台湾区製茶工業同業公会の主催するセミナーに参加してきました。 無料のセミナーだというのに、お茶と鑑定杯までお土産にいただいてしまいました。 不景気なのに、太っ腹です♪ さて、肝心のセミナーの内容ですが、前半に思月園の高宇さんのお話。 台湾茶の歴史について紹介いただきながら、台湾烏龍茶が3種提供されました。 今回のセミナーは書籍の出版を記念してものだったので、出版に深く携わられた元京都府立茶業研究所長の杉本さんからお話を。 本の名前は『台湾の茶』。著者は徐英祥さん。 茶業改良場の研究員だった方で、金萱や翠玉の品種改良に呉振鐸さんらと携わり”傑出科学人材賞”も受賞されている方です。 日本教育時代のお生まれで、日本で茶業の勉強をされていたこともあるので、日本語が堪能で日台間の茶業交流に大きな貢献をされています。 お話によりますと、どうも凄い本のようです。 原稿を日本語で書かれており、つまりこの本は台湾より先に日本で人目に触れるとのこと。 ・・・ぶっちゃけて言いますと、この時点では、事の重大さにピンと来ていませんでした。 セミナー終了後、思いがけず、その本をいただきました。 約180ページほどと比較的薄手ですが、立派な装丁の本です。 裏面に価格なども書いておらず、自費出版のような形式で出されたのではないかと思いました。 カラーのページもありますし、1冊あたりに相当なコストがかかっていそうです。数千円のレベルでは収まらないでしょう。 これは、ありがたく読まねばいけません。 その帰り道、電車の中で、本をめくり始めました。 本の構成としては、おおよそ3部に分かれていて、最初に台湾のお茶の歴史について細かく紹介されています。 そのあとに、台湾での品種改良についてのお話。 そして、台湾烏龍茶と包種茶についての茶の栽培方法から製茶に至るまでの詳細が記載されています。 ・・・最初にネガティブなことを書いておきますと、この本はプロ向けの論文と考えた方が良さそうです。 日本語で書かれていますが、専門用語が多く用いられていますので、ある程度の茶業の知識がないと読み進めづらいのです。 ただ、その分、非常に高度な内容が書かれていると感じます。 ウイスキーの原液のような、濃密な本です。 いやー、これは勉強になりそうな読みごたえのある本だなぁ と思いました。 しかし、さらに読み進めて、徐先生の専門の品種改良の話や茶の栽培・製造工程の話に入っていったら、 この本は途方もなく凄い本である ことが分かり始めました。 その内容の高度さと的確さに、電車の中にも関わらず腕組みをしながら思わず唸ってしまいました。 ↑隣に座っていた方は、「変なヤツの隣に座った」と思ったことでしょう(^^;) この本、今まで日本語で出版されてきた台湾茶の本とは、明らかに”次元”が違います。 ものすごく高度な内容でありながら、短いセンテンスの中に深い洞察と示唆が含まれています。 内容的には、中国の評茶員のテキストに近いですが、今までの歴史的な経緯なども書かれているので、それよりもさらに深い内容だと思います。 たとえば、台湾の茶業改良場が開発した新品種には台茶1号~20号までありますが、それぞれを開発した背景やその時の意図などが、簡潔ですが当事者でなければ分からない内容を整理して書かれています。 品種改良は本当に長い時間がかかります。 将来のマーケットを予測して作りたい品種の計画をし、品種の交配をして、実がなります。 これを植えて、きちんと育てて、本来の味が出てくるまで約10年。 そして、樹勢の強さや病虫害への強さなど品種としての優良性を証明するのにさらに5年、10年。。。 品種改良というのが長い時間をかけて行われるものであることが、よく伝わってきます。 さらに茶園の管理手法や製茶の際のプロセスは、あっさりと流れを書いているようでいて、味や香りなど品質に影響を与えそうなポイントを恐ろしく的確に記しています。 烏龍茶の製法については、私も東方美人の製茶を1回しているので理解しやすかったのですが、そのときに疑問に感じられたことが氷解する思いでした。 まあ、とにかく台湾の烏龍茶の製法の神髄といいますか、そういうことが余すことなく書かれた本と言っても良いのではないかと。 ここまで的確に記載されている日本語の書物を、私は寡聞にして知りません。 品種改良と技術指導の第一人者の方だからこそ書けた内容だと思います。 ただただ頭の下がる思いで読み進めていったのですが、ふと頭をよぎったのは、 この本の中身を本当に理解できる人は、果たして日本に何人いるのだろうか? ということでした。 私、単なるお茶好きの未熟者ゆえ、内容をきちんと理解できるのは、せいぜい5割程度です。 製茶のパートなどは、肌感覚のことも書いてありますので、製茶の見学だけでなく実際に自分の手で作った方でないと理解できないでしょうし、お茶の品質鑑定(いわゆる評茶)の内容を理解していないと、何を言わんとしているのか分からないと思います。 日本語なので表面的には読み進められるのですが、本質的なところまで理解を進めるのは、ベースの知識が必要なので、とても大変。 読み手に要求されているレベルが非常に高い本なので、下手をすると「猫に小判」になりかねません。 しかし、この本は日本語で書かれた。 この意味を重く受け止めなければいけないと思います。 口さがない方からは「日本人にそこまで教える必要があるのか?」「(烏龍茶を作ったことのない)日本人には、どうせ理解できないのだから無駄なのではないのか?」という声があってもおかしくありません。 でも、敢えて日本語で原稿を書き、苦労をしながら出版にまで漕ぎ着けた。 そこまでする理由は何だったのか? 日本人以上に日本人的な発想をしてくる台湾の日本語世代の方々。 推測はつきます。 この本を読んでいると、台湾茶業の土台作りに日本統治時代は非常に大きな役割を果たした、ということが出てきます。 金萱や翠玉といったお茶は、日本統治時代の茶業試験場で選抜されたものをベースに積み上げてきたお茶です。 こういうことを言うと、反発を覚える方もいるかもしれませんが、お茶の科学的な研究手法を日本人に教えてもらった、という感覚もあるのではないかと。 そう考えると、私、この本は徐先生の日本人に対しての恩返しの意味もあるのではないかと感じるのです。 人に何かを教えてもらうというのは、権利でもありますが、同時に義務も生じるものだと私は考えます。 教える側は、(こいつはものになると思えば)自分の得たこと・知りうることを真剣に教えます。 一方、教えられた側は、自分のできる範囲でその知識を生かす・広げる・進歩させ次代に繋げるという義務を負います。 このキャッチボールこそ、教育の原点。 これを繰り返すことによって知識が蓄積され、人類は進歩してきました。 でも、どちらかがボールを投げ返さなければ、キャッチボールはそこで止まってしまいます。 さあ、この台湾からの渾身の剛速球を誰が受け取り、どう投げ返すのか。 台湾の日本語世代の方々には、いつも深く考えさせられてしまいます(^^;) もしこの本をお手に取ることがあったら、是非、そのへんの心意気まで感じ取ってほしいと思ったのでした。 これは、ただの台湾茶の本ではありません。 話は変わりますが、今は中国でも茶藝師・評茶員などの資格取得を認めてくれています。 「対価を払っているのだから、当然」という見方もできるんでしょうが、そもそも国内で働く人の労働資格です。 わざわざ外国人に開放し、かなり踏み込んだ内容を教えてくれていることの意味をきちんと考えないといけないと思いました。 資格取得ということに関しては、様々な見方もあると思いますが、その根底にある「教えてもらうことの意味」を取り違えないようにしたいものです。 ホントに凄い本です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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