おみやげのつもり 女の不思議男の謎・・・84 朝吹龍一朗
畑中良輔がいわゆるチバリーヒルズの住人になって既に十五年である。街区の外れに隣接した市有地にテニスコートができてからでも十年以上か。 そのコートを使う常連が集まって仲良しクラブのようなものが自然発生的にできていた。よくしたもので、メンバーの中に地元の有力者もいれば議員もいる、果ては元国体選手までいるという。 畑中はクラブ設立当初からのメンバーである。余りに上手なのでみんなからとうとうコーチに祭り上げられてしまった元国体選手は畠山さんといい、漢字は違うが同じ「はたけ」なのでそれなりに親近感があって、練習の後シャワーを浴びると、連れ立って飲みに出かけるような付き合いになった。 このクラブでは、半年に一度、メンバー同士でダブルスを組んで行うトーナメント大会が開催される。畑中は自分ではそんなに下手ではないつもりで、比較の問題かもしれないが、このクラブの中では相当腕がいいほうだと思っている。 にもかかわらず、このトーナメントではとんと優勝の機会がなかった。まあ、ダブルスだから一人が上手くても勝てない。グラウンドストロークの時ならいざ知らず、サーブを後ろからぶつけてくるようなパートナーと組まされては勝ち目がない。 そうこうするうちに人事異動があり、月に一度は海外出張がある職場に移った。物珍しさも手伝って畑中はついつい余計にお土産を買い込んでしまう。いくら高級なチョコレートでも、同じようなものを毎月買ってきたのでは、職場の同僚たちにも飽きられる。わかっていても、それでも買いすぎる。 仕方ないのであんまり余りそうなときはテニスの仲間にも配るようにした。どうせ配るなら飲み仲間の畠山さんにはちょっぴりいいやつを届けるようになった。「それが3年前なんだよね」 高校の1級先輩だが在学中はほとんど行き来のなかった畑中と朝吹との接点が、霞ヶ関界隈でばったり出会うことから復活したのだが、この日も○○省と会議をした帰り、互いに会社に戻るのも億劫になって、特別の記念日でもないけれど気がつけば中ジョッキを傾けていた。「それからは先週で3回目だよ、優勝したのは」 畑中先輩の声は必ずしも楽しさるんるんではなかったのが少し引っかかったが、「すごいじゃないですか。ニューデリーまで行ってジム通いした甲斐あったですね」 と朝吹は無難に反応しておいた。「なーに、あれは治安が悪くてテロか何かがあって、前日から外出禁止になちゃったんだからしょうがないんだ。トレーニングしたかったわけじゃない」「いえいえご謙遜」「明らかにペアの組合せが変わったんだ」「?」「後ろからぶつけてくるおにいちゃんや人の失敗ばっかり責めたてるおばちゃんじゃなくて、丁寧にストロークで拾ってくれるおじさんとか、絶対ダブルフォルトしない慎重なおばさんとか、そういう人と組ませてくれるようになったんだ」「?!」朝吹にはまだからくりがわからない。「組合せを決めて、主審をするのは畠山さん、コーチなんだ」「それで?」 畑中さんは少しいやな顔をした。朝吹がとぼけていると思ったらしい。「ホントにわかんないんです、すいません」「貢物だったんだよ、きっと、受け取る畠山さんにとっては」 朝吹は入社2年目くらいの時に会社の大先輩からさとされた言葉を思い出した。「コミュニケーションでは、受け取る側に解釈の権利がある」なるほどそういうことだったのか。人気blogランキング投票よろしく 今日はどのへん?。