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あたふたあなくろクロニクル

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2009.01.30
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カテゴリ:カラダ
「えー、ありえないことが起きているようなんですが」

 言ってることの割にはのんびりした声で、先生は私の目の前に腕を伸ばした。
 差し出された手には、
 ねじ状というかブラシ状というか、ちょうどマスカラブラシみたいな器具が握られていた。
 今この瞬間まで、私の歯の中に差し込まれていたブラシである。

 そのブラシに綿みたいなものが絡まっていた。

「これなんですが」と、先生はなおも落ち着いた声ーーというより半ばあきれた声だったのかもしれないがーー「本来、残ってるはずのないものなんですよね」。

 はあ。

「よく手術とかで、入れたまま閉じちゃったとかいう話ありますよね」

はあ。

「まあ、そういうようなものですね」

はあ。

 またかあ~。
 
 その「普通ありえないこと」が、私の歯にはこれまで何度も起きてきたのである。

 この際その話をしてしまおうと。
 また余計な話が増えてしまうが、これもシンクロ話のひとつで、
 なぜか今私の周りには歯で困っている人がなんとも仰山いるのである。

 つい最近まで親不知の処置に悩んでいた後輩は抜歯に踏み切り、
 そしてどうやら成功(ほんと良かった)。
 現在親不知を抜こうと考えている人も一名。

 親不知を抜かれた結果、人より歯の少ないサル状態となった人も一名。
=私である。

 親不知の処置に悩んでいる方々は、とにかく慎重になさるべきである。
私は脅す。たとえ恐怖を植え付けることになろうが、恐怖を肌で感じるよりはマシである。

 今は昔と違って情報豊富、口コミも豊富で、歯科医の姿勢自体がかなり変わってきた(と思いたい)。したがって状況はかなりよくなってきた・・・と思っていたのだけれど、実はそうでもないらしい。歯医者放浪状態を続けている人はいまだに結構いるのである。

 私はその大先輩、大御所なのだ。こんなことしか自慢できない自分が悲しいが。
ヨガ遍歴も長いが、歯医者遍歴も長いのだ。そしてこっちの遍歴は悲しい方向へ逸れた。
悲しい末路、ではない(と思いたい)。今度こそ正しい歯医者さんに出会ったのだ(と、これまでも毎回思ってたんですが)。

 そもそも、お医者様ならどこの誰でも行けば治してくれるもの、と
どこかで考えていたらしき(自分では何の意識もなかった)、そこが大いに間違いだった。

 親不知。いっそ見つけなければよかったのに親不知。
 あそこから我が歯医者放浪が本格的に始まったのでありました。

 今にして思えば、「すべての医者が名医ではない」ことに、その運命の親不知事件(刑事事件みたいだな)に巻き込まれる前に気づいてもよさそうなものだった。

 麻酔で唇が腫れたこと数回。
「痛かったら手をあげてください」と言うからあげたのに止めてもらえなかったこと数回。耐えられない痛さで先生の腕を必死につかんだら振り払われたこともあり(小学生だった)。

 さらに言えば、歯が生え変わる時期、もう永久歯が出てきてるから乳歯抜いてしまいましょう、と
言われたがために、私の前歯は歯並びが悪い。

・・・それでも悟らなかった。先生は神様のごときに信じておった。

 そして親不知。

 私は進化した人間なので親不知が4本ともある。あるのだが全部埋もれている・・・いや、いた。過去形ね、ここ。いた。大いに過去。大過去。フランス語だ。

 だがそれを知らなかったので、ときどきうずく理由も知らずにいた。
知らないほうが幸せなことも、世の中にはある。

 あるときそのうずきようがひどかったので、虫歯なのかなと思って歯医者に行った。
そこで隠れていた親不知くんたちが発見されたのだった。
ほぼ直角に隣の歯を押しているので、これがよくないというわけである。
抜くべきであろう、ということだった。

 ここでまた運命というか、たまたまそのとき、私は新しい職場に就職したばかりだったのだ。
一応試用期間中だから、まだ有給はとれない、と上司に言われました。あとで事務のおばさまから、
病欠なら当然とれたのだといわれてがっくりしたのだが、あのころは真面目だったから(いや今も真面目ですけど)、仕方ない、夜もやっている歯医者を見つけよう、と、初めての歯科医院に行ったのである。駅からも近くて便利だった。駅前留学と一緒で、駅に近いところは危ないのかもしれない。

 たちどころに話は決まった。
 これもあとから、しかもあちこちから聞いたのだが、親不知を抜くことは「手術」らしい。
 モノによっては「大手術」らしい。
 町医者でほいほいとやるものではないそうなのだ。お医者さんによっては大学病院を紹介してくれるという。
 手術着に着替えさせられ、全身麻酔の場合すらあるという。
 人によってはそこでひと晩お泊まりしたりもするという。

 ところが私は会社帰りに寄ったのだ。体調も深く考えず(これから抜く人は体調も考えましょう)。
 さすがに次の日が休みの日を選んだとは思う。あの熱で次の日会社に行ったとは思えない。

 診療台がいくつか並んだ中のひとつに座らせられる。普通の診療台である。
 抜くのは右下。あ、そうだ、すっかり忘れていたが、右上の親不知も抜いたのである。上を先に抜いていたような気がする。こちらは無事に抜けたのだ。そう、公平を期してその点は認めねばいかん。そちらについては何も起きなかったのだ。

 逆に言えばそれで騙された(表現悪いですが)と言えるかもしれん。

 で、口を開けてからしばらく経ったとき、先生がいったん手を休めて告げた。
 正確な言葉は覚えていないが、要するに、

 思った以上に大きくて抜けない

 ということだった。

「想定外」ということである(むろん当時そんな言葉は流行ってなかったが)。

 そのため、どうするべきかというと。

――親不知のすぐ隣にある歯。本来ならいちばん奥の歯。これはすでに神経をとった歯である。

 先生が何を言わんとしているのか、口を半分開けた状態の人間は当然予想できない。

 先生は説明を続けた。

――神経をとった歯は簡単に抜けます。

 まだ理解できませんが素人には・・・

――だから抜いちゃいましょう。

 は? 

 椅子が倒れている状態で、口も半開きで、おそらくすでに出血。その状態では、

「やめてください」

・・・とは言いにくいのであった。

 それに愚かな患者は、この時点でもまだ「お医者様は神様」と思っていたようにも考えられる(遠い昔のことなので本人も想像するしかない)。

 先生はさらに、思えば恐ろしいことを言った。

――抜いたあと植えれば植わるんです。

 そして先生は・・・ 
抜いてしまったのである。

 2本。一気に2本。

 親不知はたしかに相当でかかった。
こんな立派なものをなぜ隠しておくのかと言いたいくらいにでかかった。
 がしっとペンチで(かどうかは知らないのだが)鷲づかみ、
 
 べきべきべきべきっ

。。。間違いなく私の耳にはその音が聞こえた。歯茎に樹が生えてたかと錯覚しそうなくらいだ。

 当然だが血だらけである。私が貧血になったのはあれからじゃないか(一応注:これは嘘です)。

 そして私が一瞬気を失っているうちに(これも嘘です、たぶん)、先生は抜いた歯を植えたらしい。

「子どもが鉄棒から落っこって歯が折れたりしても、その歯をちゃんととっておいてすぐ戻せば元に戻るんです」と先生は例証まであげた。本当にそう言った。でもこの理論は正当なのかもしれない。知りませんが。

 あとからさんざん、「挿し木じゃないんだから」とバカにされたが、
「医師」にその場で説明されたら、やっぱり信じてしまうものなのである。
それにあのとき、抵抗しようたってそのすべは相当限られていたと思うのである。

 その晩の苦しみ。当然熱は出たが、血もなかなか止まってくれず、
そしてその痛みようといったら、今の私なら救急車を呼ぶかもしれない。
昔は我慢強かったのだ。我慢は我が身のためならず。

 親不知を抜いたあとは腫れる、という知識くらいは当時の私も持っていた。
だから我慢してしまったのだ。間違いだった。

 それにしても。数日経っても痛みが消えない。
抜いたあとのケアのため再び行ったときに聞いてみたら、
「それはあれだけの大きさのものを抜いたのだから痛いでしょう」ということだった。

…そこで納得するな患者。

 その後も痛いのである。むしろ親不知跡の穴より、植樹祭後の歯のほうが痛い、ような気がする。
だがそれを言ってみると、
ちゃんとついているのだから平気なはずであるということだった。

…そこで引き下がるな患者。

 つくづく思うが、
カラダの感覚というのはかなりの率で正確である。
本人の自覚ほど鋭い探知針はない。

 ついに、どう考えても、これは「気のせい」で痛いのではない、と、確信に近いものを抱いたのであった(遅い)。

 そして別の歯科医を訪ねたのである。

 その先生は私の話を聞いて、静かに告げたのだった。

「普通そういうことはしません」

・・・・

 歯医者放浪本格的に始まる。あああまた「続」になってしまった。

 ここから現在通いだした歯医者さんに到達するまで、長い年月が流れるのである。
もしかしたら、今の歯医者さんはまだこのとき開業してなかったかもしれない。

 うう。






 

 




 






 


 





















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Last updated  2009.02.03 19:25:37
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