テーマ:季節(55)
カテゴリ:季節
一人でおれがおれがと言い張るしかない道と、 実は自分は何者でもない、 そのために自分をささげる対象があるならそれを教えてくれ、という願いのはざまに、 人はいると思う。 山下洋輔「ピアニストを笑うな!」 なんだかやたら地面に近いところから降り注いでいる感じのする夏の陽射しと アスファルトの照り返しとで、温度と密度の上がった空気に ぎゅっと詰めこまれた感じのセミの声が好きだ。 空気が空気でなく、ゼリー状の音の塊みたいに感じる朝の舗装道路。 まひるのいちばん暑いさかり、セミの声も消えてしまった無音のもわっとした空気も夏らしくて良い。 そうして最近、けっこう気に入っているのが、硬い廊下に響くセミの声だ。 外で過密状態になったセミの声が窓の隙間から細く流れ込んできて、 響きのよい廊下で何倍にも大きくなって聞こえてくる、すこしだけ無機質になったあの音。 自分はまったく関係のない涼しい場所にいて、でも外の空気の震えを肌に浴びているという感じ。 廊下の冷たい床に、両足を投げ出してぺたんと座りこみたくなってしまう。 今朝のように、しかくい部屋の、しかくい窓から、やたら天気の良い空を見上げたりしながら 研修が始まるのを待っていたりすると、ふと心もとなくなる。 自分は何をやっているのだろうか、と。 でも、「こういうのもありかな、」と感じさせてくれるのが、廊下のセミの声だったりするのだ。 なぜだろう? 数年間も暗い土の中で生きてたった数日、夏空の下思いきり鳴いて死んでいくセミの、 命の音を、その真摯な存在感を、まったく意に介さず今日も世界が動いているということに はっとするやら心のどこかで納得するやら、でもその割合に、自分という人間の本質を知る。 そうしてそれを客観視できる自分の余裕に、ふと安心する。 大げさに言えば、そういうことだ。 普通サイズに戻して言えば、・・・どう言っていいか、分からないけど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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