ウイスキーと「加水」の意味
「本場スコットランドでは、ウイスキーはストレートで加水しながら飲む」という話を聞いたことはあるでしょうか?確かにスコットランドでウイスキーを頼んだとしても、日本のように飲み方を聞かれることはありません。当然のようにウイスキーのストレートが入ったグラスが出てきます。そして、それと共に必ずテーブルに常備されているのが、水の入ったジャグとスポイトです。しかし、「なぜ加水しながら飲むのか」ということについて詳しく知っている方は少ないと思いますので、今回は「ウイスキーと加水の意味」について詳しく書いていきたいと思います。まず、ウイスキーを加水することによって得られるメリットとは何か。「度数が下がって飲みやすくなる」それもひとつです。しかし、もっと大事なメリットがあります。それは「自分好みの味にアレンジすること」なのです。水を加えても、元の味が薄くなるだけじゃないのかって?その疑問はもっともです。様々な研究がありますが、一般的なウイスキーの香りを成分分析すると、1本のウイスキーの中には80~130種類もの香りが含まれていると言われています。ですが、これらの香りは加水によって均等に増減していくわけではありません。アルコール度数が高い状態で顕著に出てくる香り、アルコール度数が低くなった方が感じやすい香りなど、香りによって性質が違うのです。ウイスキーの香りが度数の加減によって、どのように変わるかのイメージを図にすると以下のようになります。(注)以上の図は説明用のイメージであり、実際の加水によってそれぞれの香りが図のように変化するのが一般的という訳ではありません。「蜂蜜」「樽」「パッションフルーツ」「アルコール」「若草」という5つの香りが、20°~60°のそれぞれの度数の中で、それぞれに顕現しやすい度数、しにくい度数があるのが見て取れると思います。60°では、アルコールの刺激が鼻にきて、パッションフルーツの甘味と若草の爽やかを感じる「パンチのある、爽やかに甘いウイスキー」という評価になるでしょう。40°では、樽由来の木の香りを強く感じ、蜂蜜、パッションフルーツ、若草の香りが複雑に絡み合う「熟成感があり、重層的な甘味が魅力のウイスキー」となります。20°では、アルコールの刺激はほとんど感じず、ウイスキーが持つ個性を詳細に分析出来るようになります。この段階では「蜂蜜様の甘い香りが主体の食前酒向きウイスキー」という感じでしょうか。これは一例ですが、このように度数の変化によって様々な表情を見せてくれるのが、ウイスキーの魅力なのです。「スモーク香が主体のウイスキーだと思ったが、加水したら意外とフルーティだった」とか「フルーツっぽい甘いウイスキーだと思ったら、加水すると爽やかだった」なんてこともあるのです。せっかくウイスキーをストレートで楽しむのであれば、時には加水してウイスキーの「新たな一面」を探してみてはいかがでしょうか。そうすれば、今まで苦手だと思っていたボトルが気に入ることもあるでしょうし、今までお気に入りだったボトルをもっと好きになることもあるでしょう。せっかく家にいる今だからこそ、「加水」を使って1本のボトルとじっくり向き合ってみましょう。Enjoy your bar life!追記今回は、話を分かりやすくするために60°、40°、20°というキリの良い度数で説明しましたが、実際にはほんの僅かな加水でもガラッと味わいが変わることが多いです。スコットランドで加水用にスポイトが使われるのは、1滴ずつ水を加えることで、最も自分好みな味に調整できるようにするためです。自宅でスポイトを使いたい方は100均のもので充分です。加水用の水は、軟水のミネラルウォーターを使いましょう。