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第五話「探し出せ、画面の中に入り隊!」
マシンナリー・アイランドは一面荒野が広がる人が居ない異世界だ。 風が吹いたと思えば一万砂が巻き起こり、朽ち果てた生き物の骨が粉微塵になって散っていく。 真上を見れば暗雲だけが広がっていて、青空のあの字も見えやしない。 「初任務のおさらいだ」 そんな異世界に立ち寄った二人の人物がいる。 彼等がこの崩壊世界にやって来た目的は一つ。 「ブロンズクラスの『画面の中に入り隊』を探し出すことだな?」 「そうだ。お前の弟曰く、彼等はこの近辺の調査をしている最中に行方がわからなくなったらしい」 異世界侵攻組織、ガーディン。 その新部隊として新たに発足されたクロウ部隊の二人は支給されている車の中で打ち合わせを進める。 「行方不明になった連中の顔写真はお前にも渡しておく。今回は戦いではなく探し物だから、無用に暴れる必要は無い」 「そうあることを祈らせてもらおう」 大げさにお祈りのポーズをとりつつクロウ部隊唯一の隊員、神鷹・カイトは隊長の女性を睨む。 だが、隊長のゼクティスは特に気にもしない様子で続けた。 「安心しろ、ここは人の住んでいない一種の『崩壊世界』だ。まあ、人が住んでないだけで鉱物とかはありそうだからガーディアンに目をつけられたわけだが」 故に、現地に住んでいる者に迷惑をかける事は無い。 現地に済んでいる人間がいないからだ。 「だから時空警察機構も此処には来ない筈だ。彼等が察知する場合、大抵はそれなりに人が住んでいる異世界だからな」 「現金なことで」 砂嵐が目に入ると困るので、ゴーグルを用意しながらカイトが呟く。 しかし時空警察機構が来ないのならば無駄な戦闘をせずに済むし、初任務に集中できる。 今後のクロウ部隊の活動を左右するだけあって、今回の捜査の失敗は許されない。 組織に敵対するという時空警察機構が来ないというのならそれだけに都合がいいと言うものだ。 「何かあったら無線で連絡をくれ。私も何かあったらお前に連絡しよう。もし戦闘ごとに巻き込まれたらお前が頼りだからな」 「隊長様は本当に役立たずな事で」 「う、五月蝿いな! 私は爪で皮膚を切り裂くような器用な真似は出来ないんだ!」 それにしたってせめて武器くらい持って行くべきだろう、常識的に考えて。 『隊長様』を半目で見つつ、カイトは手袋を填め直す。 自分の武器はこの手袋に仕込んである『爪』だ。 その鋭利な刃から生み出される『切り裂き』攻撃は簡単に人間の肉を引き裂き、そして削ぎ落とす。 「住人は老朽化しているお世話マシーンだけなんだな?」 「そうだ。もし邪魔をするというのなら遠慮なく壊していいとのキルア様のお言葉だ」 それなら特には問題ないだろう。 後は行方不明になった画面の中に入り隊を探し出して本部に報告すればいいだけだ。 「では、当初の予定通り分かれて探そう。何かあれば――――」 「連絡するように、ね。了解したよ隊長様」 「……お前に様を付けられると妙に馬鹿にされてる感じがするんだよなぁ」 実際馬鹿にしてるんだよ、とは口に出して言わないでおく。 ただ、この隊長様が立派に『隊長』となって自分の身を預けても問題ないと判断したその時はちゃんと隊長と呼んでやろう。 凄まじく上から目線の考え方だが、カイトはそう思っていた。 画面の中に入り隊というネーミングセンスはどうにかならなかったんだろうか。 それが彼等を探す上でカイトが思ったことだった。 (画面の中に入ったところで勇者になれる保障はねーぞオイ) もしくはヒロインと結婚したいという願望がこの名前に込められているのだろうか。 どちらにせよ彼等が望む展開になる保障は何処にもないのだが。 (……行方不明になったのは三人) ゼクティスから配られた顔写真を眺めつつ、カイトは彼等の名前を思い出す。 ジュリー・ファントン デビット・ランバー トーマス(トム)・ビーンソー この三人だ。 (ありふれた青少年ってとこかね?) 彼等の顔写真と資料を眺めた後の感想はそれだけだった。 別に何とも思わず、只純粋に『青年』に見える。 それだけである。 カイン曰く、ガーディアンに所属する構成員は大抵何かしらの『力』があるのだと言う。 ならば彼等も『力』があると考えてもいいはずだが、 (資料には何も書いてないな) 逆に考えれば何かしらの『スペシャリスト』なのではないかと言う可能性もある。 アシュロントが植物を操ったり、メラニーが玉を自在に扱ったりするのは『異能者』としての『力』だと分別するが、ゲイザーやタイラントのように特別な力を使わなくても十分に戦える人材もいる。 カイトは彼等のような肉体派系、もしくは何かしらの技術に特化している者を『スペシャリスト』と呼んでいる。 (ゲイザーやタイラントは何かしらの能力を隠している可能性はあるが) それでも彼等二人は十二分に強い。 『異能者』としての力が無くても立派な『スペシャリスト』だと思う。 (だとすると、彼等も何かしらのスペシャリストなのか……?) 画面の中に入り隊というからには、電子関連なのだろうとは思う。 それならば、 (使えるかもしれない) 突発的にそう思った。 もしも彼等が自分の思っている通りの電子機器関連の『スペシャリスト』なのだとすれば、 (何とかして俺の味方に引き込むことが出来れば、内側を上手く掌握できるかもしれない……!) 掌握とまでは行かなくても脱出までの時間稼ぎ。 その他にも様々な情報収集面で役に立ってくれるはずだ。 しかも今回は彼等を探し出し、救出するという任務。 恩を売っておくには悪く無い。 (駄目なら実力で捻じ伏せるとして、だ) そこまで目処を立てたのはいい。 問題はゼクティスよりも先に彼等を見つけることが出来るかどうか、ということだ。 (俺の担当の場所にいること……もしくは隊長様がうっかり彼等を見過ごしていることを祈らせてもらおう) そうなれば早速捜査開始だ。 自分の持ち場はスクラップ置き場である。 この崩壊世界がマシンナリー・アイランドと呼ばれる理由は過去に栄えた文明があり、その文明が生み出したロボット達しか暮らしていないからだ。 しかしその文明の痕跡を垣間見る事ができる場所が幾つか存在している。 その一つがスクラップ置き場だ。 (まあ、所詮はゴミ置き場だが) まだこの世界のロボットに会った訳ではないので彼等のゴミの基準はよく判らない。 だがゴミ置き場にしてはゴミが溜まりすぎている。 外から見ただけではゴミだけで一つの洞窟なんじゃないかと思うほどだ。 (ゴミの処理が追いついていないのか……? もしくはとっくの昔に停止したのか……?) ゴミだけで軽くマンションが出来てしまいそうなのだ。 これはどう考えても長い間溜めているとしか言いようがなく、処理が出来る環境ではなかったことが考えられた。 詰まり、ゴミ処理の機能が停止していてスクラップの処理が行われていないのだ。 (画面トリオが担当した調査位置は此処と港か) 港の方はゼクティスが担当してくれている。 しかし、港と言っても船が何隻かあるだけでソコまで本格的な施設ではないらしい。 例によって人も居ないので、整備もまるで行われていないのだが。 (問題はスクラップ置き場に居るのか否か、だが) スクラップで出来た城下町を軽く見回してみるが、人の姿は見当たらない。 当然だ。 この程度で見つかるようならアトラスから捜索願いは出ない。 此処はスクラップ置き場に彼等がいると想定した上で『何処にいるのかを』考えることにする。 (スクラップに押し潰されているのか……?) 一番ありえそうな可能性がソレだった。 だが、同時に一番厄介な可能性もソレである。 (死体探しになる、か) だが、任務として言い渡された以上はやり遂げなければならない。 要は結果を出せばいいのだ。 ――――クルーガー…… 今はもう誰も使っていない地下鉄の奥に『ソレ』はいた。 地下全体に響き渡る不気味な声に呼び出され、クルーガーと呼ばれた鋼鉄の塊は駆けつける。 「お呼びでしょうか?」 機械人形クルーガー。 来るべき時に備えてエネルギーを蓄えている『御主人様』の代わりに行動する為に生み出されたお世話ロボットである。 老朽化した他のロボ達とは違い、ボディはピカピカだった。 ――――何者かが再びこの地に足を運ばせている。 「何と、またしても」 少し前にこの崩壊した筈の世界に何人もの人間達がやって来た。 何人かは生体データを取る為に捕まえたのだが、今度は何の用だろうか? ――――今検出されている生体反応は二つ。いずれもこの前捕まえた人間とは違う。 この前捕まえた人間――――確かジュリーとトーマスとか名乗っていたか。 もう一人、デビットと言う人間が居たが彼には逃げられた。 そのデビットが仲間を助けにやってきたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。 「では、その二名を再び生け捕りに?」 ――――否。確かに我は人間の生態データを求めたが既にお前が捕らえた人間で解析済みよ。問題は『ムートン』だ。 ムートン、という単語にクルーガーはぴくり、と反応した。 「ムートンの仲間だと……?」 ――――否。ムートンは我等と同じくこの地にて育った機械人形。それ故に突然現れた人間共に仲間が居るとは考えにくい。 「しかし御主人様、お言葉ではありますが奴が逃がしたデビットなる者が仲間を呼んだ可能性もあります」 ムートンとクルーガーは人類が疫病によって滅んだ後、『自我』が生まれた『御主人様』に生み出されたお世話ロボットだ。 『御主人様』は地下で長い年月をかける事でエネルギーを蓄え、新たな地に『根付く』事が目的だった。 だから必然的にムートンとクルーガーはソレまでの間不自由になる『御主人様』のお世話を見なければならなかったのだが、 「ムートンめはスクラップ置き場で御主人様の命に背き、人間を助けました。許されない行為です」 ――――その通りだクルーガー。故に、我はお前に命ずる。 新たにやって来た人間を襲い、ムートンをおびき出せ。 殺しても構わん。 そして命令に背いたムートンをスクラップにするのだ! 「御意に!」 スクラップ置き場の調査を始めて早5時間。 画面トリオの行方は未だに判らなかった。 (ゼクティスから連絡が無いって事は、港の方も見つかってないってことだろうが……) スクラップ置き場人を探すのは港を隅々探すよりも難しいのではないだろうか、とカイトは思う。 下敷きになってしまった可能性の事を考えると、スクラップの下まで調べなければならないからだ。 流石にソコまでやっていると時間が幾つあっても足りない。 (スクラップを微塵切りにしてしまえばまだ何とでもなるんだろうが……) 自分の周囲にあるのはスクラップの山。 仮に自分を包丁と例えると、この大量の材料を刻むとなれば時間がかかるし疲労で刃の切れ味が落ちる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.05.03 21:16:05
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