カテゴリ:黄昏微睡
「ユウリさん、ちゃんと捕まっていて下さいね」
夏蓮の相手をしつつ、悠里に声をかける秋嵐。 「あ、はい」 膝下と脇下をすくい上げるようなお姫様抱っことは違い、腕を腰にまわして抱えられていたので、悠里の捕まるところは頭しかなかったが、頭に抱きつくわけにもいかなかったので、手元にあった肩にそれぞれの手を置いた。 「遠慮しなくてもいいのに……」 「遠慮するわ!」 間髪いれずに、夏蓮のツッコミが入る。 「夏蓮は真面目だからな~」 「真面目の何処が悪い!」 また、ぎゃあぎゃあ言い合いを始めた二人をよそに、自分の視点がいつもよりも高いところへと移動して、初めて自分が寝かされていた部屋の全貌を見ることになった。 (寝ていて、気付かなかったけど――) 寝かされていた天蓋つきの寝台もそうだが、部屋の各所にある調度品や部屋の装飾は、博物館とかで展示されていそうなくらい豪華なものだった。 (紫禁城とかにありそうなものばかりだし、もしかしてすごいところ来ちゃったんじゃ……?) 悠里がいろいろと考えている間に、悠里を抱えた秋嵐と夏蓮は寝室を後にし――その殿をつとめるように、寝室の扉を閉めた有弧楼が続く――いくつも扉のある長い廊下を抜けていく。 廊下の欄干や壁には季節の花や景色、龍や鳳凰などが描かれており、場所によっては何かの物語の一場面を描いたものがあった。それらを、電気照明とは違う動力の明かりが照らしていた。 まだ言い合っている夏蓮や秋嵐にとっては日常的なものなので、気にも留めないものだったが、悠里にとっては目に映るものすべてが初めて見る珍しいものだった。 廊下を抜けた先に赤い柱の続く回廊があり、その回廊に差し掛かると、急に視界が青く染まった。 「きれい……」 ![]() 思わずつぶやく。 悠里の目に映ったのは、夜明け前の一瞬に現れるどこまでも青い世界。 そこでは淡い色の太陽と蒼白の月が同時に空に浮かんでおり、泰山の頂上付近に造られた紫微宮からは、雲海の下に広がる鬱蒼とした緑の山々が見渡せた。 「人の世界のように昼夜の変化はありませんが、日輪と月輪が空を巡回しています」 有弧楼から『巡回』と言われ、思わず空に輝く太陽と月を見た。確かに、悠里の知る太陽と月とは異なる動きをしていた。 「あれって巡視船か何かなんですか?」 「はい。闇国――闇国というのは、魔族の住む魔界のことなのですが、闇国からの侵入者や冥界からの脱走者を発見するためにあれは空から監視しています。今はまだ平時なので日輪・月輪のみですが、緊急時には七曜すべてが稼動することになるでしょう」 有弧楼からもたらされた説明は、悠里の想像を絶するものだったので、驚愕するしかなかった。 (ここって一体、どんな世界なの?) ≪ 続く ≫ ランキングに参加しています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.09.05 19:52:52
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