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ソクラテスの妻用事

ソクラテスの妻用事

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2022年05月17日
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カテゴリ:ブログ冒険小説

ブログ冒険小説『闇を行け!』エピソード

大きいサイズのウクライナの国旗 


ウクライナの栄光は滅びず 自由も然り
運命は再び我等に微笑まん
朝日に散る霧の如く 敵は消え失せよう
我等が自由の土地を自らの手で治めるのだ

自由のために身も心も捧げよう

今こそコサック民族の血を示す時ぞ!
​​
(ウクライナ国歌『ウクライナの栄光は滅びず』・訳詞より)


(主な登場人物​​)​​​

 

・堀田海人(ほった かいと)札幌の私大の考古学教授。
・十鳥良平(とっとり りょうへい)元検察庁検事正。前職は札幌の私大法学部教授。現在、札幌の弁護士。

・榊原英子(さかきばら えいこ)海人の大学の考古学教授。海人の妻。
・役立有三(やくだつ ゆうぞう)元警視庁SAT隊員 十鳥法律事務所の弁護士。
・君 道憲(クン・ドホン)日本名は――君 道憲(きみ みちのり)
・武本 信俊(ムボン・シジュン) 君の甥 韓国38度線付近の住民 
・ムボンの父 通称は「親父(アボジ)」
・ムボンの母 通称は「ママ」


(エピソード)

 夜11時30分。かなり遅い夕食だったが、海人と榊原は共同で、徹夜で仕上げる研究論文があるから、軽く腹を満たす程度だった。
 海人と榊原がお気に入りのコストコで買った格安の「ローストの鶏1羽」を、簡易ビニール手袋をつけた手でむしり取っていた。
 海人が手羽を口にくわえた時だった。テーブルのスマホが震え鳴った。
 以外にも、十鳥でなくムボンからだった。しかも海外からである。十鳥から5月中旬にムボンと仲間がウクライナに行った、とは聞いていたが。
「今ウクライナの夕陽を愛でています。先生。美しいプレーリーサンセットになりそうですよ」7時間遅れのウクライナからムボンが、わざわざ連絡をよこしたのだった。
「そりゃあ、大草原の夕陽だ。地平線に沈む光景は、特にウクライナの小麦畑のそれは絶景だろうな」海人が想像を膨らめせて言った。
「榊原先生もお元気ですね……」ムボンが榊原と会話したそうに言った。海人がスマホをスピーカーホンにした。
「榊原に代わるよ」
「お久しぶりです。榊原先生。実はお聞きしたいことがありまして……」
「何でしょう?」
「あの‶闇を行け!″で、榊原先生は、ある時から抗体検査をしませんでしたね?」ムボンが言葉に気をつけて訊いた。
「そのこと? 皆、潜っていたから止めたのよ」榊原が答えた。
「実は……先生たちが帰国した翌日の抗体検査で、俺は無症状の陽性でした」
「親父さん、ママさん、クンさんは?」榊原が訊いた。
「俺以外、皆、陰性でした。俺は隔離の2週間生活し、陰性となりました。皆元気ですが……」ムボンが言いたいことを残したのが、榊原に分かった。
「ムボンさん。海人先生も私も陰性ですよ。十鳥さん、役立さんも陰性ですよ」
「良かった……」何かが喉まで出かかったのを、抑えているかのような物言いだった。
「海人さんに代わりますわ」察した榊原が、そう言って海人に代わった。
「ムボンさん。喉から吐き出して良いぞ!」海人がズバリ言った。
「先生たちも承知されていることですが、北朝鮮で新型コロナ感染が猛威を振るっていますね。あの時……兵舎内の者たちに猿ぐつわをかませたのですが……俺は唾を吐き付けたのです。それと感染が関係しているのでしょうか?」
「陽性者の唾だからな。しかも飛沫でない。キスして移っているようなイメージだな。だが、北朝鮮のコロナ感染は5月前後からだよ。‶闇を行け!″は8月中旬だから、今のところ無関係だね」
「やはりそうですよね……」ムボンが余韻を残して言った。
「いやいや、ムボンさんの新型ウイルスはオミクロンの変異したものだ。北朝鮮のウイルスは、前のタイプだろう」
「海人先生。それでは……これから俺の変異株が……」やはり気にした物言いのムボンだった。
「こう言うのも不謹慎だが、我々の‶呪いかけ″があるかも知れないぞ! ムボンさんの変異したウイルスが拡散するかも知れないよ」海人が予言じみた言い方をした。そして畳みかけた。
「ムボンさんよ。ミサイルと核兵器に国家予算の大方を使い続け、人民を蔑ろにしている独裁王朝将軍様だ。悔い改める岐路にある北朝鮮となった。我々の‶呪いかけ"は、まだ効いているようだね。ところでムボンさんは、ウクライナ支援の義勇兵として戦っているんだね?」
「ええ、ウクライナで、かつての狙撃連隊の同志たちと戦っています」
「今まで何人殺したんだ!」海人が迫った。
「先生。俺はロシア兵の足を撃っているよ。殺してはいない。タマに股間に当たる時もあるけどね」
「戦況は?」海人が短く訊いた。
「へルソン州を奪還して、クリミヤ半島へ向かっているよ。1カ月以内で駆逐できそうです」
「そうか――でも、何よりもムボンさんの安全を祈っている! まだ我々にはやるべきことがあるからね」
「俺たち狙撃連隊は、後方2kmから撃っている。前線部隊は苛烈だが、暗視ゴーグルで暗夜を進んでいるから、かなり安全性は高いです。帰国したら、札幌に行きますよ」ムボンは声を明るくして言った。
 榊原が割って入った。
「ムボンさん。白い十字架がお守りくださりますわ。ムボンさんには祖先たちも守っています。きっと。私たちも祈っていますよ」
「先生たち。ありがとう!」ムボンの電話が切れた。
 海人が姿勢を正して言った。
「英子さん。食う前に祈ることとしよう」
「ええ、そうしなきゃね」榊原も背筋を伸ばした。
 海人が祈った――
『天にまします父なる御神。どうかウクライナの大草原に、明日はとりわけ大きく明るい陽光が昇り、ウクライナに平和が来たらしめますこと。そしてムボンさんらのご無事を、主イエスの御名を通じてお祈りいたします。アーメン』
 海人と榊原は祈りつつ、ウクライナのプレーリーサンライズを観ていた。
 何と大きく力強い日の出なのか――

(完)






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最終更新日  2022年05月17日 19時04分30秒
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