憎悪のサイクリングロード
”憎悪のサイクリングロード”正行は焦っていた陽のあるうちに帰宅するはずがもう午後6時になろうとしていた陽が伸びたとはいえあたりは薄暗くなっていた4月を目の前にした3月某日日曜の朝は快晴風は無く気温も程よい感じ自慢のロードレーサーでぶっ飛ばすには絶好の日和だ午前6時ベイサイドのマンションから出発した正行は河川の土手にあるサイクリングロードを上流へと飛ばしていた休日ということもありロードには徐々に人があふれてきた「邪魔くさい」「どけどけ!」心の中でそう叫びならそれらを巧みに避けべダルをできるだけ定速で回転させていたすると突然目の前に土手を駆け上がってきた子供が現れたすんででかわした正行「バカヤロー!死にてえのか!」思わず出てしまった汚い言葉普段の生活では口に出すことはまずない後で自分でもびっくりするほどだったイライラする「目の前の邪魔なお前らみんな消えちまえ!」「犬なんか連れて歩くところじゃねーぞ!」心の中で叫ぶ声は身勝手にも過激さを増していたやがて建物の数は減り緑は増し風景は少しずつのどかになっていった自転車ブームに乗っかる形で始めた正行の脚力は相当なものに成長していた何台同好の自転車を追い抜いたことか2~3度給水休憩を入れお昼にはロードの最終地点まで到達していた「千恵子と一緒だったらこうはいかなかったな」少しうれしくもあったそう!予定では付き合い始めた千恵子も一緒のはずだったところが前日千恵子は会社からの帰宅途中駅の階段で捻挫今日のサイクリングには行けなくなってしまった申し訳なく思った彼女は当日の朝車で正行のために弁当を持ってきてくれた正行は残念な気持ちと共に彼女への愛おしさも感じたそんなことが今日のイライラに一役かっていたのかもしれない土手の斜面に寝転んで空を見上げる”普段の生活ではこんなことはしない・・・”ここまで来ると空気もきれいだ思いっきり手足を伸ばし深呼吸をしてから身を起したさっそく千恵子が持ってきてくれたランチを紐解いた彼女のか細い指で握られたおにぎりがふたつ梅と正行が好きな焼きおにぎりバナナが1本入っていた飲み物は途中コンビニに足を延ばして買ってきたお茶それらをあっという間に平らげまた斜面に身を横たえた満腹感と心地よい疲れが正行の眠りを誘ったふと気が付くと不覚にも1時間ほどが経過していたそろそろ行かなくては!立ち上がった正行だったが腹部に少し違和感を感じた?大丈夫だ!自分に言い聞かせサドルにまたがったいつの間にか風が出はじめていたやがて強い向かい風に変わった少し眠って疲れが出たのかまた、風の影響もありペダルが重い20分も走っただろうか突然おなかに差し込むような痛みがいけない!正行はどうも食あたりを起こしてしまった様子すがるような目であたりを見回す河川敷に降りて用を足してしまおうかとも考えた釣り人や、遊ぶ子供たち、散歩する人々視線が気になってとてもできない身を隠す場所も見当たらない「忌々しい奴らめ!どこまで俺の邪魔をするんだ!」正行の怒りはお門違いの方向にまで向けられる始末それでも我慢して重いペダルを踏み進むこと10分その間何台の自転車に追い抜かれたことか振り返って笑う輩までいる「こん畜生!」自分への怒りもマックスにようやくコンビニを発見なんとかたどり着くことができたひどい下痢だった治まったかと思うとまた差し込んでくるこれを何度繰り返したことか「まだですか!」痺れを切らした待ちの人にドアをたたかれたふと我に返りトイレを出たのは30分後だった自分でもげっそりと痩せた気がするほど消耗していたコンビニの店員から「大丈夫ですか?」と声を掛けられた礼を述べそそくさと店を出た自転車を止めたところでしばらく休んだ周囲からの視線もまったく気にならなくなっていたようやく立ち上がるも自転車のハンドルとサドルに手を置きうなだれる正行「千恵子のやつ何か盛りやがったのか?」あらぬ疑念まで湧いてくるサイクリングロードまで乗れずに自転車を転がしていった相変わらず風が強い空を見上げると陽が西に傾き始めていた「いけない」正行の頭に”不安”という2文字がよぎった続くかも?*フィクションにほんブログ村