「国の方針として自殺予防戦略が存在しない国」と二度と言われないように
わが国の精神保健福祉の取り組みが諸外国よりも遅れていたため、大きな批判を受けた経緯があることは知っていました。しかし、先に上京先で買い求めた『メンタルヘルスとソーシャルワークによる自殺対策』(大野裕 監修/大山博史・渡邉洋一 編著/相川書房)の第7章 わが国における自殺対策の政策的取り組み、を読んでいたところ、冒頭に次のような記述がされていました。 わが国において自殺対策が政策的な課題として認識されるうようになったのは、1998年に自殺死亡者が3万人を超過した以降のことである。実際、1996年に発表された国連の自殺予防のためのガイドラインでは、日本は「国の方針として自殺予防戦略が存在しない国」として分類されている。現状をなるべく広範囲に把握した上で、過去の教訓を踏まえ、将来を見つめた歩みをしていくのが当民間団体の考え方であり、取り組む姿勢です。1950年~2004の自殺死亡の年次推移:自殺死亡数を見ると、1958年に23,641人、1986年に25,667人、そして年間自殺者3万人となった1998年の前年に23,494人が自殺によって亡くなっているのであります。社会に自殺対策の重要性が認知されていなかったと言われればそれ以上のことは言えません。しかし、国がこうして人口動態統計から毎年自殺者を把握していた中で、何ら地に足が着いた取り組みを始められなかったのは何故でしょう。わが国は経済面だけを見て先進国と言われ、欧米諸国と肩を並べています。しかし、保健・医療・福祉に関して言えば、後進国ではないでしょうか。現在、金融危機を迎えている中で、リストラや企業の倒産、高校生の就職状況が変わり、内定が取り消されるような事態になっています。ここで引用したいのは、2005年7月、参議院厚生労働委員会における「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」であります。 多くの自殺の背景には、過労や倒産、リストラ、社会的孤立やいじめといった社会的な要因があると言われている。我々は、世界保健機関が「自殺は、その多くが防ぐことのできる社会的な問題」であると明言していることを踏まえ、自殺を「自殺する個人」の問題だけに帰すことなく、「自殺する個人を取り巻く社会」に関わる問題として、自殺の予防その他総合的な対策に取り組む必要があると考える。 先週木曜日に国は追加の緊急経済対策を発表した上で、行政の抜本的改革、経済状況を見極めた上で、3年後に消費税を3%増加するとも発表しました。自殺対策従事者の吉越は、経済状況が3年後に安定するとは考えていません。それ以上に取り組む必要があることは「推進」「実施」という用語を安易に使っているように見受けられますが、参議院の決議等を踏まえて国の自殺総合対策を本腰で取り組むことではないでしょうか。行政の首長が、社会的弱者や経済的弱者に対して冷たい姿勢をとるようでは、自尊心を失い、社会から孤独となってしまう人達が増えてしまうのではないだろうか、との懸念を抱きます。