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2008.08.16
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カテゴリ:■一日一賢
今日の一日一賢



■この日のビートルズ 謝罪会見の憂鬱




 人類がまだ月面着陸を夢見ていた1960年代、英国出身の4人の若者が世界を席巻した。ポピュラー音楽史の記録を次々と塗り替えただけではなく、文化、思想、生活スタイル、あらゆる分野に強烈な影響を与えた。語り継がれる20世紀最高のファブ・フォーの「この日」にこだわってみました。





問題発言の正式な謝罪をした後のビートルズのジョン・レノン (Photo by Harry Benson/Express/Getty Images)



 強制的に謝罪させられることほど、不愉快なことはない。

 ジョン・レノンにとって1966年の「キリスト発言」騒動は、それまで25年間の人生のなかで最悪の事態といえるものだった。

 8月11日、ビートルズは全米ツアーのため英国を発ち、ボストン経由でシカゴに着いた。その晩、高級ホテル「アスター・タワーズ・ホテル」の27階では、ツアーに先立ち、恒例の記者会見が始まろうとしていた。

 通常の会見は、地元のラジオ局やテレビ局によって収録されるが、その日は3大テレビ・ネットワークが生放送の特別番組を組んで待ちかまえていた。

 「キリストを冒涜(ぼうとく)した」とされる発言をめぐり、ジョンは米国人記者からの質問攻めにあうのだった。

 問題の発言は5カ月以上も前の3月、英国の「ロンドン・イブニング・スタンダード」紙に掲載された。友人として親しいモーリーン・クリーブのインタビューに答えた。その発言は、1ページ全面に掲載された記事の真ん中あたりに登場する。

 ――キリスト教はなくなるよ。いつか衰えていって消えるだろう。そんなことあれこれ論じる必要もない。僕の言っていることは正しいし、いつか正しいことが証明されるはずだ。今の僕らはキリストより人気がある。ロックン・ロールとキリスト教と、どっちが先にすたれるかはわからないけれど。キリストそのものには問題なかった、でも彼の弟子たちが頭の悪い凡人だったんだよ。僕に言わせれば、彼らがキリスト教をねじ曲げて堕落させたんだ――

 いかにもジョンらしい辛辣な言い回しだ。英国教会の衰退を取り上げたのだが、指摘はまともすぎて英国では注目もされず、そのまま忘れ去られていた。

 ところが、布教の地を求めピューリタンが渡った新大陸での受け止め方は、大きく違った。

 7月29日、米国のティーン雑誌「デートブック」にこの記事が転載された。表紙には、「ロックン・ロールとキリスト教、今じゃどっちが重要なのかわからない」と刷り込まれた。

 文脈の中から、その言葉だけを抜き出したために、「ビートルズはキリストより優れている」などと誤解され、たちまち大騒ぎになった。特に「バイブル・ベルト」と呼ばれる南部の保守的な地域ではビートルズ・ボイコット運動にまで広がった。
 
 22のラジオ局がビートルズの曲を放送禁止にした。ビートルズのレコードや本、関連商品をたき火で燃やす場面を実況中継した。ディスク・ジョッキーは「ビートルズのごみを持ってきてくれ、そんなものを捨てよう、みんなで燃やすんだ」と煽った。

 事態の悪化に慌てたマネジャーのブライアン・エプスタインは8月6日、ニューヨークで記者会見を開いた。

 ブライアンは短い声明を出した。ジョンの真意は、この50年間に英国教会が衰退したためにキリストの力も失墜してしまい、その現状に驚いていることにあると説明。ただ、一部の若い世代に対してはビートルズの方が直接的な影響力を持つように思えることを指摘した、という内容だった。会見では12日から始まるツアーをキャンセルしても構わない、とまで言った。

 それでも騒動は収まらなかった。ジョンが記者会見で謝罪することになったのは、ジョンだけでなくメンバー全員に半端じゃない脅迫が舞い込んできていたからだ。ブライアンは、メンバーの誰かが狙撃されるかもしれないことを最も恐れた。

 ――もし「テレビはキリストより人気がある」と言っていたら、何もいわれずにすんだかもしれない。余計なことを言ってしまって後悔しているよ。僕はたまたま友人と話をしていて、「ビートルズ」という言葉を自分とはかけ離れた存在として使っただけなんだ。今の彼らは何にもまして大きな影響を若者や状況に与えている、あのキリストよりも、って言ったんだ。そんなふうに言ったのが間違いだった――

 ――あんな騒ぎを引き起こしたことについては悪いと思っている。だけど反宗教的な意味合いはまったくなかったんだ・・ただ、キリスト教は衰えつつあり、現代の状況を見失っているんじゃないかと言うことだよ。本来の姿を取り戻そうとしているようにも思えない――

 謝罪というよりは説明だ。ジョンは自分の発言の論理的な根拠を述べ、その真意を限定し、1度ならず2度も言いたかったことを説明した。しかし、記者の関心はここでジョンが謝罪するかどうかにあった。ジョンは記者たちを満足させるために、とにかく謝罪した。

 ジョンは述懐する。

 「僕はしゃべりたくなかった。しゃべれば殺されると思った・・(記者会見では)偽善を並べながら、僕はおびえていた。本当に怖かったんだ」

 ジョージは英国で記事になったときからジョンを支持した。「どうして神に対する冒涜だとかそういうことになるんだ?キリスト教がみんなの言うとおりの優れたものなら、ちょっとくらいの議論でビクつくことはないはずだ」

 ポールはアンソロジーで「ジョンはみんながはっきり感じてることを口にしたのさ。英国教会はもう何年も前から衰退しつつあるって・・記事全体を読めば、彼が言わんとしていることは誰もが思っていることと同じだってわかるはずだよ」と述べた。

 リンゴは「米国であれほど大問題になったのは、誰かがあの1行だけを取り出して、月まで飛んでいきそうなほどかけ離れた話に仕立てたからさ」と皮肉っている。

 謝罪会見後も余波が続いた。8月15日、ワシントンDC公演の開演前には、クー・クラックス・クラン(KKK)の団員6人が、3色に彩られた衣装をまとって会場の外をデモ行進した。8月19日のメンフィス公演では、メンバーのだれか、あるいは全員が暗殺されるという匿名の電話があった。そして、ショーの途中でステージに爆竹が投げ込まれ、爆発した。

 8月29日、サンフランシスコのキャンドルスティック・パークのツアー最終公演を最後に、ビートルズは永久にステージから降りた。ツアーをやめたがっていた彼らにとって米国での「キリスト発言」騒動は、その決心をより固くさせた事件となったのだろう。



お知らせ

「キリスト発言」は米国でのレコード・セールスに影響は及ぼしたのか。米国キャピトルが独自発売したアルバム「イエスタディ・アンド・トウディ」はビルボード誌で7月30日付から5週連続で1位。最後の全米ツアーの期間中、ずっと首位を保っていた。渡米直前の8月8日に発売された米国盤「リボルバー」は、英国盤より3曲少ない構成だが、追いかける形で9月10日付から6週連続で1位になっている。同時発売のシングル「イエロー・サブマリン」は最高位2位、B面の「エリナー・リグビー」は11位まで上がった。




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