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カテゴリ:■一日一賢
■車酔いとクルマの進化 最近ふと気付いたのだが、クルマ酔いする人が少なくなっている。いや、もちろん酔う人はいるにはいる。しかしその数は昔と比べれば圧倒的に少ないのではないだろうか。昔は子供であろうが、年寄りであろうが、車に酔って、いたるところで吐いていたもの。しかし、それはなぜだろう、と考えてみた。時代とともに人間そのものが変化してきた。あるいは順応力をつけた、ということもいえるかもしれない。なにしろちょっと泳いでいるだけで指と指のあいだに水かきができるような動物である。三半規管の成長なんて、実はわけもないことかもしれない。 しかし僕が推論するのは、道路も含めて、クルマが変わったということである。昔の車はなぜ酔いやすかったか?といえば、まずシフトだ。ATのない昔はMTである。シフトチェンジのたびに前後に揺すられる。この動きは弱い人には相当気持ちが悪いはずだ。高速道路のない昔の道路では、乗っている間中この前後動が繰り返されたわけだから、ボディーブローのように効いたことだろう。さらに、決定的だったのはサスペンションにダンパーが効いてなくて、つまりふわふわと揺れ残りが続いて、運転手がシフトをするたびに前後の揺れに続いて上下のふわふわが加わったことである。運転手がハンドルを切ると、今度はグラッとばかりに傾いて目の前の世界が斜めになる。 シートがふにゃふにゃだったことも災いした。あの傾きは顔面パンチだったろうと思う。今のクルマはどんなにソフトなクルマでも昔に比べれば半分も傾かないもの。運転手がハンドルを戻すと、今度は例のサスペンションのせいでちょっと逆に傾き、またその逆に傾き、なんてことを繰り返していたんだからたまったもんじゃない。乗り物に強い人間でも場合によっては酔った。 前の車が急停止したかと思うと、いきなり人が転がり降りてきて道路にうずくまる姿をどれだけ見たことか。今、そういうシーンを目にするとすれば、それは酔っ払いか、せいぜい胃潰瘍の人くらいだ。 僕はあの頃、つまり小学生の頃、酔わない車を作りたいといつも思っていた。もちろん経験がないから分析は出来ない。今のようにサスペンションがどうのこうの、なんて知らなかったから。ただ、ベンツのタクシー(こんなものもあったんです)に乗って、「これだ!」と思ったのは覚えている。乗り心地はなんだかコツコツと硬くて、シートも硬くて、けれど揺れ残りがない。乗っていて頭が傾かない。クルマに乗ると必ず酔っていた弟がベンツでは酔わなかったのが何よりの証拠だ。クルマはみんなこうなればいいのに……と何度思ったことか。 ちなみに日本のクルマがこのような乗り心地を得るのには、このあと20年かかっている。僕のクルマに対する興味の下地はこんなところから出来上がったようだ。 松任谷 正隆(まつとうや・まさたか)さん プロフィール: 音楽プロデューサー 1951 年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。 20歳のころよりプロとしてスタジオ活動を開始し、 数多くのセッションに参加。 その後、アレンジャー、プロデューサーとして 多くのアーティストの作品を手掛ける。 1986年に設立した「マイカ音楽研究所」では、 自ら校長として後進の育成にも力を注いでいる。 長年に亘り「カーグラフィックTV」でナビゲーターを務めるなど モータージャーナリストとしても活躍。 日本カーオブザイヤー選考委員。 松任谷正隆さんの新著 「職権乱用」 \1,680 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.08.20 16:10:53
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