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カテゴリ:健康・病気
本日(2012.4.24)の朝日新聞医療面の記事「アリセプト、認知症進んだ患者にも効果:英の研究チーム発表」を読み、疑問を感じられた介護者の方も多かったのではないでしょうか。 まずは紙面の一部をご紹介しましょう。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 「研究チームは、アリセプトを3カ月間以上飲んでいる295人を、そのまま続ける、新薬メマリーに切り替えるなど4グループに分け1年後の効果を調べた。 この結果、アリセプトを続けた人はやめた人に比べ、認知機能や日常生活の活動性が下がる程度が低かった。メマリーを続けた人の効果は、アリセプトを続けた人に比べると小さく、両方を服薬しても、効果は変わらなかった。」 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- この紙面から受ける印象はズバリ、「メマリーよりもアリセプトの方が効果が高い。併用の意義は少ない。」という印象ではないでしょうか。 この記事の元となった論文は、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル」という超一流医学雑誌に掲載(Howard R:Donepezil and Memantine for Moderate-to-Severe Alzheimer’s Disease. N Engl J Med Vol.366 893-903 2012)されたものです。超一流医学雑誌ですからその影響も大きいわけです。 この研究は、通称、DOMINO study(ドミノstudy)と呼ばれています。 要旨はウェブサイトにおいても閲覧可能です。 対象となったのは、地域在住のアルツハイマー病患者で、3カ月以上のドネペジル投与歴があり、重症度が中等度または高度(標準化ミニメンタルステート検査のスコアが5~13)であった295例です。 ですから朝日新聞紙面では、「アルツハイマー型の認知症はある程度、症状が進んだ患者でも、治療薬アリセプトを飲み続けると、記憶力や計算力低下の進行を遅らせることが、ロンドン大キングスカレッジなどの研究で分かった」と報道しているのです。 シリーズ第88回『シリーズ・ほとんど進行しないアルツハイマー病?(4)』において紹介しましたように、アリセプトとメマリー併用の有用性は、中等度から高度アルツハイマー型認知症患者(MMSEスコア:5点以上14点以下)403例において確認され、日本でも併用が認められています。私自身も、多くのケースで併用して使用しております。 現在、このドミノstudyの結果の解釈をめぐっては、専門家の間においても意見が分かれているのが現状です。 辛口の専門家は、「当初は295例の対象であったが、脱落症例数が多く、最終的には119例となり各群(プラセボ+プラセボ:20例、プラセボ+メマリー:27例、アリセプト+プラセボ:34例、アリセプト+メマリー:38例)ともに30例程度の症例数なり、『アリセプト+メマリー』群が最も有効ではあったものの有意差が出なかっただけなのでは・・」と指摘しています。 しかし私は違った捉え方をしております。シリーズ第370回『抗精神病薬の導入は極力慎重に』において指摘しましたように、「メマンチン(商品名:メマリー)は、認知機能を損なうことなくBPSDに効果を示す(藤本健一:メマンチン. 日本臨床 Vol.69, Suppl 10, 41-46 2011)」ことが期待されている薬剤です。 メマンチン療法により、興奮/攻撃性を認める患者の76%で同症状が軽減することが6件の国際的プラセボ対照二重盲検試験を対象としたメタアナリシスにおいて確認されております(Gauthier S:international Journal of Geriatric Psychiatry Vol.20 459-464 2005)。 メタアナリシスに関しては、シリーズ第116回『認知症治療薬を理解する(2)』の「メモ」欄をご参照下さい。 メタアナリシスにて興奮/攻撃性の76%で効果が認められておりますが、私の自験例もご紹介しましょう。 私は、ケアしていくうえでご家族にとって最も切実な問題である「BPSDの改善」という面から評価して見ました。BPSDとは、復習シリーズの第235回『ひょっとして認知症?復習シリーズ・その4』においてご紹介しましたように、「認知症に伴う行動障害と精神症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)です。 私の自験例においては、23例中22例(95.7%)において、ご家族からBPSDの症状が「軽くなりました」という評価を頂いております。興奮/攻撃性以外のBPSDも評価対象に加えたため、有効率が高くなっているのだと思っています。 私は、ご家族から一番困っている症状をお聞きし、それが記憶障害という中核症状ではなくBPSDであった場合には、メマンチンを先行して使用するようにしております。 中核症状と周辺症状について復習しておきましょう。 認知症の症状は、中核症状と周辺症状に大きく分類されます。 主な中核症状は、記憶障害、失語、失行、失認、実行機能障害です。中核症状は、すべての認知症患者さんにおいて出現します。 周辺症状とは、怒りっぽくなったり、不安になったり、異常な行動がみられたりするもので、人によって発現に差があり、最後まで周辺症状が出現しない場合もあります。近年、周辺症状は、BPSDと呼ばれることが多くなっております。BPSDは、行動症状と心理症状に分類されます。 最後に、実際の診療の様子をご紹介しましょう。 患者さんは、60代後半の男性患者さんです。ご家族とともに、2012年4月下旬に榊原白鳳病院の物忘れ外来を初めて受診されました。 2年程前から物忘れが目立つようになり、易怒性、物盗られ妄想もあります。HDS-Rは、12点でした。MRIにおいて、脳萎縮も確認されました。 HDS-Rについては、シリーズ第15回・第238回・第208回をご参照下さい。12点といいますと、中等度認知症(15.43±3.68)からやや高度認知症(10.73±5.40)への移行期という状況です。 この段階に差し掛かるまで受診されなかったのですね。早期受診の重要性が叫ばれておりますが、実際にはまだまだ啓蒙は十分とは言えないようです。2012年4月21日に開催されましたアルツハイマー病研究会・第13回学術シンポジウムにおいて、エーザイ株式会社の内藤晴夫代表執行役社長は、「認知症患者さん全体で、医療機関を受診しているのは3分の1程度」であると指摘されておりました。 話を元に戻します。私は、この患者さんのご家族に問いかけました。 「今一番お困りの症状は、記憶障害ですか? それとも怒りっぽいことですか?」 ご家族は、「怒りっぽいことです」と答えられました。 私は、ご家族の意向に従い、受診当日にご本人にも病名を告知し、本人・ご家族に対して、「先ずは、怒りっぽいことを治療していきましょう。そしてそれが落ち着いたら、進行が遅くなるように薬を調整していきましょう。」と説明しました。 2011年にアルツハイマー型認知症の治療薬が3剤新発売され治療の選択肢は広がっております。ガランタミン(商品名:レミニール)とメマリー併用の有用性を報告した論文もあります(楢橋敏夫:ガランタミンの細胞レベルにおける作用機序. 老年精神医学雑誌 Vol.22 1309-1321 2011)。 アリセプト・レミニール・リバスチグミンとメマリーとでは、期待される治療効果が異なります。患者さんの症状に応じて、きめ細やかな治療計画を検討していくことが求められている時代に差し掛かってきているのだと私は感じております。
笠間 睦 (かさま・あつし)プロフィール 1958年、三重県生まれ。藤田保健衛生大学医学部卒。振り出しは、脳神経外科医師。地元に戻って総合内科医を目指すも、脳ドックと関わっているうちに、認知症診療にどっぷりとはまり込んだ。名泉の誉れ高い榊原温泉の一角にある榊原白鳳病院(三重県津市)に勤務、診療情報部長を務める。認知症検診、病院初の外来カルテ開示、医療費の明細書解説パンフレット作成--こうした「全国初の業績」を3つ持つという。 趣味はテニス。お酒も大好き。お笑い芸人の「突っ込み役」に挑戦したいといい、医療をテーマにしたお笑いで医療情報の公開を進められれば・・・と夢を膨らませる。もちろん、日々の診療でも、分かりやすく医療情報を提供していくことに取り組んでいる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.06.09 05:18:39
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