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カルメンチカの部屋

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2004.10.26
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~プラド美術館が所蔵する15~19世紀のヨーロッパ各国の名画の数々に、古典主義からバロック的リアリズムを経てロマン主義、という美術の大きな流れを見てとることができる~

●古典的なテーマからリアリズムへ
 プラド美術館は世界有数の美術館であり、美術の歴史を語るうえで避けて通れない名品、傑作の宝庫だ。ここではベラスケスのリアリズム絵画への道、そこからゴヤの想像力豊かな作品にいたる過程をたどってみよう。まず最初にフィレンチェの巨匠ラファエロの作品を見ておきたい。それは古典主義的理想美の極限ともいえるものだからだ。ラファエロは特定のモデルを描いたのではなく、心の中の“理想”を描いた。たとえば『魚の聖母』『羊を連れた聖家族』のマリアは、その後のマリアの像の手本となるほど、“理想的”に描かれている。ラファエロはギリシア古典期の彫刻類が形作った美の理想へ自然を近づけようとした。同じように古典期の彫刻の美を探った画家にフランスのニコラ・プッサンがいる。その『パルナッツ山』や『バッカスの祭典』は、見事な描写力とともに、古典期の美を強く意識させる作品だ。ネーデルランドのヒエロニムス・ボッシュのテクニックも素晴らしい。ボッシュは『快楽の園』で中世の人間の心に潜む恐れを、目に見える形で描き出して見せた。そして死をテーマに描いたのがピーテル・ブリューゲルの『死の勝利』。これらの作品では、より自然に近い形で描いているものの、テーマとしては依然として旧時代のものだった。しかしブリューゲルの『村の踊り』のように、庶民の生活を描き始めたことは、以後の絵画に大きな影響を与えることになった。

●ベラスケスとリアリズム
 ベラスケスのリアリズムを探るために、『バッカスの勝利“酔っ払いたち”』を見てみよう。プッサンの“バッカス”と比べると、その特徴が良くわかる。ベラスケスは神話の世界をまるで日常の光景のようにリアルに描いている。古典的・伝統的テーマを離れると、ベラスケスのリアリズムはもっとはっきりしてくる。『ブレタの開城』では、わずかながら様式化されているが、その後景はあきらかに現実に向かって開かれている。そして現実の出来事を見事に画面に留めたのが『ラス・メニナス』。絵画におけるリアリズムを追求したベラスケスの頂点といえるだろう。しかし『織女たち』では新たな要素が加わっている。回転する紡ぎ車のリアリズムは見事だが、光り輝く背景にはどことなく印象主義的な“雰囲気”が感じられる。風景画になると叙情的な色合いがより強くなる。『ヴィラ・メディチの庭園』では木漏れ日や大気をリアリスティックに描きつつ、そこに昼のあるいは夕の雰囲気を醸し出されている。ここからゴヤや印象派へは、もうあと一歩だ。

●リアリズムからロマン主義へ
 ゴヤへの道をたどるためには、まだ多くの巨匠たちを経なければならない。まずプラドが誇るスペイン絵画の巨匠たち、リベラ、スルバラン、ムリーニョ。リベラ後年の『ヤコブの夢』では、リアリズムよりも微妙な色彩の変化によって叙情性がまさっている。ロマン主義への道を大きく前進させたのが、ドイツ・ルネッサンス最大の画家デューラーとイタリアのヴェネツィア派。いきいきとした『アダム』と『エヴァ』を見るとき、デューラーが“内的な生”を描くことで、リアリズムを超えていることがわかる。ティツィアーノやティントレットのヴェネツィア派は“色彩の力”によって理想主義を超えている。バッカスを主題にした『バッカナーレ』では、ティツィアーノは伝統的な構図を無視し、そのために不安定になりそうな画面を色彩の微妙な操作によって見事に統一させている。そしてこの流れはバロック絵画の巨匠、フランドル派のルーベインスニよって決定づけられた。『三美神』に見られる豊満な肉体、輝くような色彩、どれも古典期の理想美とはあまりにも遠い。ルーベンスが描くのは、現実に見、愛した生命のあるものだった。

●ロマン的な画家――エル・グレコとゴヤ
 グレコは年代的にはベラスケスの前に置くべきだが、その作品はとても“モダン”だ。グレコが描いた2枚の『受胎告知』を比べてみよう。ヴェネツィア時代のものは、当時の合理的で現実的な空間表現で、人体は古典的様式だ。その輝く色彩にはヴェネツィア派の影響が見られる。一方、晩年に描かれたものはヴェネツィア時代の自然の形や色を大胆に捨て去り、“受胎告知”の場面が劇的に描き出される。このグレコの“不自然”な形や色は同時代には受け入れられず、彼が評価されたのは1920年代、じつに没後300年を経た、モダンが花開く時代になってからだ。
 “画家のなかの画家”といわれたのはベラスケスだが、ゴヤにいたって絵画は絵画であることをやめはじめる。ベラスケスの輝かしいスペイン絵画の伝統的な技巧を余るところなく発揮したゴヤだが、そのテーマは、それまで絵画を成立させてきた伝統を無視している。晩年の『巨人』や『理性の眠りは怪物を生む』などのエッチングには、それまで描かれたことのない怪物がいる。彼は後半生、耳が不自由となったが、作品にはことに幻想の世界が描かれるようになった。ゴヤの時代こそ「いままで詩人だけがしていた、個人の幻想を紙の上にとどめる仕事を、画家も自由にしてよいと感じ始めた」(ゴンブリッジ)時代であり、それを画布に初めて定着させたのが、“偉大なる近代絵画の先駆者”ゴヤだ。


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最終更新日  2004.10.26 09:42:02
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