ベル姉の鯉する日常ときどき妄想

家政婦は見た

「あの家政婦さん、やっぱりヘンだよテツト兄さん」
タカヤがオレの部屋に入ってくるなりそう言った。

「いつもドアとか物陰から顔半分だけ出してこの家のこと見てたりするんだよ
なんだか気持ち悪いよ~」
あのオバサンはよく気がつきよく働くが得体のしれないところは確かにある。
「そういえばむか~~~しこの屋敷にもそういうひとがいたってきいたことがあるぞ」
「え?その人も家政婦さん?」「いや、先々代、いやもっと前かな。当主だったひとさ。
決して全身をみせたことはないんだ。使用人に指示を出す時もいつも物陰にかくれてるんだ。
そのひとのもう半分の顔や体を見たことのあるひとは誰もいなかったそうだ。なんかコワイだろーーーー」
「ぎゃ~~イヤだよ~~そういう話ぼく苦手なんだってば。そのひと変人だよ!」
「いや、それが違うんだ。この家を再生に導き一番栄えさせたひとらしいぜ。
この館を日本一にまでしたこともあるんだ」
「すごいなぁそれは。お父様も今とても期待されてるけどなかなかうまい具合にいってないよね」
確かにうちの親父は後援会の会長M氏には覚えめでたいが、地元民の指示はイマイチなところがある。
去年は人事の登用の仕方に非難が集中してこの館の当主の交代を求める声も上がったほどだ。

「それはそうとオマエ、23日(@日南、VSロッテ)にはすごい働きをしたじゃないか、オマエのおふくろがオヤジに
ぜひ後継者の筆頭にってご注進にきてたぜ」
「やめて欲しいんだよなぁ、ボク、自分で自分のことちゃんとアピールできるのに」

こんこん♪←ドアを叩く音。

「お、噂をすれば影だぜ」

「お紅茶をお持ちいたしました。
そうそうさきほど若いお美しい方がお見えでしたけど」
「あ~きっと、菜々子さんだ。前田トシイエさんとこに嫁いだ、テツト兄さんの遠縁の方だよ」
「その『兄さん』ていうのはよせよ、3ヶ月しか違わないんだぜ」
「お二人はお母様の違うご兄弟でございましたね。いろいろたいへんでございましょ?」
「なにが?なんにもないぜ、家政婦さん、なんか期待してない?」
「まぁいやだ!めっそうもございませんおほほ~~♪」
別宅の息子と嫡男との後継者争いとか財産目当ての殺しとか、サスペンス劇場みたいなどろどろ劇、
コイツは絶対期待してる興味津々て顔だ。

「あの日は真史寿樹兄さんも大活躍だったね」
「真史はすごいぞ、あいつは今年きっと出てくるぜ」
「今は誰もが生き残りに必死だからお父様も誰を推すか頭悩ませるだろうね」
「あらまぁ、お館さまにはそんなに息子さんがおありなんですか?」
「そうなんだよ、この館は今下克上の真っ最中で今に血で血を洗う大抗争がおこるぞ。
家政婦さん、死体をみつけてもびっくりしないようにな」
「あらまぁいやだ!ほんとなんですかぁお坊ちゃま!」
「テツトぉ!ワルノリだよ、それ」
「わっはっは♪」

にゃお~♪
「あ、すらいり~だ、おいで」
「まぁかわいい猫ちゃんだこと、すらいり~っていうんですか?水色の猫なんて変ってますこと」
「コイツはバック転もできるんだぜ」
「あらまぁいやだ!冗談ばっかり」

とまぁその後数日は平穏な日々が続いたがある日事件は起こったのだった。




「たたたたたた、たいへんですぅぅ~~お坊ちゃま!はぁはぁ」
「どうしたの?家政婦さん」
「ドタバタうるさいなぁ、なんなんだよ」
「お、お、お館さまが、、、、、」







「死んでます!」



「え~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」




オレたちはすぐ親父の書斎に駆けつけた。
親父は泡を吹いて倒れていた。胸に耳をあててみたが鼓動が聞こえない。
「あ~~~~~~~~~~っ!!」
「どうしましょどうましょ、お坊ちゃま」

「割れてる~~~~~~~っ!!」
オレとタカヤはユニゾンで叫んだ。
「へ?」
と言ったのは家政婦さんだ。
「たいへんだぞ、割れてるぞ」「や、やばいよ~~!」
「なにを言ってらっしゃるんですの?お館さまがたいへんなのに」
「古伊万里の壷だよ、お父様が大事にしてた」
それはナカジマ某先生が「い~~~ぃ仕事してますねぇ~」とえらく驚嘆した壷だった。
「何百万もするの?」と親父にきいたら「桁がひとつ少ないぞテツト」と言ったのでオレはびっくら
こいたものだ。
「これじゃぁ親父、ショックのあまり死ぬはずだ」
「誰の仕業かなぁ、あ~可愛そう、お父様」
「この時期に家の者でこんなことするヤツはいないはずだが、それとも外部のヤツか、親父の隠居を
求める声も多かったが頑として受け付けなかったからな」
「と、とにかくかかりつけのドクター呼びますわ、お坊ちゃま方ここを離れないように」
家政婦はまたドタバタと出ていった。



「タカヤ、おまえ、後見人のO野の叔父貴に電話しろ。
オレはE夏の叔父貴に知らせる」
「え?」
「場合によってはこの二人に後のことを任せることになるかもしれん」
「え~~?O野の叔父様はいいとして、E夏の叔父様はほら、いろいろあって、ヤバイんじゃ、、」
「あの人はなぁ、人相は悪いし、腹は出てるし、パンチパーマだし、服のセンスは悪いし、
やくざみたいに見えるけど」
「テ、テツト、、そ、そこまで言ってないよ」(汗)
「ほんとはすごくいい人なんだ、オレはもう一回この館のために働いてもらいたいと
思ってる」
「うん、その気持ちはよくわかるよ。ボクは大阪に行ったT川の大兄さんにも来て欲しい。
ボクを、そもそもこのお館に連れてきてくれた人だ」
「そうだな、でも『虎猫会』の親分が許してくれるかどうか」




「おい」
とその時後ろのほうで声がした。
最初は空耳かと思ったが、もう一回「おい」という声が聞こえたとき、オレとタカヤは同じことを思った。
「マジかよ!」
後ろを向くのは怖かった。声の主が誰かわかったからだ。

「オマエらオレの死んだあとのことをわざわざ考えてくれてるのか、親切なこったなっ!!」



「ぎゃ~~~~~!!生き返った~~~~~!!」




親父は壷が割れたショックのあまり心臓発作を起こしたのだが、仮死状態だったのだ。
しぶとくも生き返った親父は犯人探しに血眼になり、見つけ次第殺しかねない勢いだったが、
犯人がわかったときそれをあきらめた。
犯人は家政婦さんがみつけた。

「匂いがしたんですよ」
「匂い?」
「わたしもね、猫を飼ってるんですよ。はるみちゃんていうんですけど。だからわかるんです。
猫のおしっこの匂い」

あの時は気が動転していて気がつかなかったが、壷のまわりに「すらいり~」がおしっこをしていた。
「すらいり~をお手打ちにするわけにはいかないんもんなぁ。お父様泣く泣くあきらめたね」
オレとタカヤは家政婦さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、怒らせた親父の機嫌をとるにはどうしたら
いいかと話し合ったが、やっぱりいい仕事をして結果を出すしかないという結論に達した。

というわけで一件落着したわけだが、E夏の叔父貴にここへきてもらうのはまだまだ遠~~い先の
話になりそうだ。


                      終わり




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