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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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March 7, 2021
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大変貴重な一冊。知る人ぞ知る名プロデューサー、広渡勲さんの回顧録です。 

広渡勲さんは、東宝を経てNBS(旧JAS)で、海外のオペラハウスやバレエの公演を数多く手がけられ、スカラ座、ウィーン国立歌劇場、ベルリンドイツオペラ、ウィーン国立歌劇場など、伝説になった来日公演の裏方として奮闘なさり、質の高い公演を実現した立役者となった、伝説の名プロデューサー。その仕事ぶりと気配りで、クライバー、バレンボイムをはじめ著名なアーティストの絶大なる信頼を受けたことでも有名です。クライバー、バレンボイム、メータなどは家族同然、バレンボイム、メータとは「三兄弟」の仲だそう。

 この本を読んでいると、なるほどなあ、という場面が何度も出てきます。素早く仕事をこなし、満遍なく気配りする。仕事においても人間関係においても、とにかく「機転がきく」のです。演目や演出の交渉といった公の部分から、来日公演中に主役キャストの一人が浮いていると折を見て食事に誘うような、目に見えない部分での細やかな気配りまで、それはすごいのです。
 最晩年、体調が芳しくないカール・ベームを、ファンにもみくちゃにされないようこっそり楽屋口から出したら、本人がファンに囲まれたくて機嫌が悪くなったので、その次の公演の時にはファンの「エキストラ」!を楽屋口に十人揃えた!とか。公演中に揉めていた演出家と歌手を、最後の最後の打ち上げパーティで一緒に鏡割りをさせて仲直りさせたとか。。。。そんなエピソードを読むと、つくづくその気配りの素晴らしさに感じいってしまいます。この人となら一緒に仕事がしたい、と思うアーティストが続出するのは当然でしょう。
 気配りの広渡さんと、本物へのこだわりと眼力が凄まじかったというNBSのトップ、故佐々木忠次さんの組み合わせで、NBSは80−90年代にかけて、伝説的な来日オペラ公演の数々を実現させることができました。新国立劇場もなかったし、日本も上向きだったし、ある意味いろんなタイミングが重なって、クライバーの「オテロ」や「ばらの騎士」、フリードリヒ演出の「リング」日本初演など、語り草がいくつも生まれました。
 もう、そういう時代ではありません。「人」もいなければ「お金」も回らない。また海外の歌劇場にしても、当時のような、自分たちの名誉をかけて日本公演を、という気概は感じられない(日本に持ってくるのは現地でのBキャスト、ということが珍しくありません)。ビジネスライクになった、というようなことを広渡さんもこの本の中で呟いておられます。

 広渡さん、「スピーディSpeedy」というニックネームをお持ちで、そのことは前から存じていたのですが、その由来も本書にありました。スカラ座の総裁一行を京都に案内していた時、立ち止まって話してばかりいるので、「歩きながら話してください」と頼んだところ、機智があってすばしこい人気キャラ、「スピーディ・ゴンザレス」みたいだ、と言われ、それがニックネームになったのだそう。なるほど。
 広渡さんと海外出張に行かれたある方から伺ったのですが、ウィーンに行ってもベルリンに行っても、劇場に行くと「スピーディがきた!」と大騒ぎになったそう。(当時全盛期だった)「カサロヴァが、私のところにきてちょうだい、って言ったり、ベルリンではルネ・コロが、「スピーディがきているなら僕が空港まで送っていく」と言い出したりするんですよ」。で、「とにかく仕事が早いんです。数歩歩く間にいくつかのことをしている。僕の何倍ものことをしてるんです。「スピーディ」って呼ばれている理由がわかりました」
 このお話、とても印象的だったのですが、この本を読むと、よくわかります。
 名プロデューサーと伝説の公演、日本のクラシック音楽受容史の重要な1ページですね。中身の濃い本で、特にオペラ好きにはたまらない、ワクワクドキドキの一冊です。
 
 もし「クライバーって誰?」という読者も意識するのだったら、構成はもう少し考えたほうがよかったかもしれません。最初から延々とクライバーとのエピソードが出てくるより、広渡さんの経歴や当時のクラシック、オペラ、バレエ界の状況から始める手もあったかもしれません。

本の詳細はこちらから。

マエストロ、ようこそ





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最終更新日  March 7, 2021 09:21:46 PM


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