読書案内No.147 田辺聖子/おちくぼ姫 古典名作『落窪物語』を分かり易く現代文にした作品
【田辺聖子/おちくぼ姫】◆古典名作『落窪物語』を分かり易く現代文にした作品せっかく日本人として生まれたからには、日本の古典文学にもある程度親しんでおきたい。とはいえ、現代語と古語では日本語と英語ぐらいに読み下していくのが面倒なものである。だいたい古典なんて学校の授業で教わったところはほんの、ほんの触りに過ぎないもので、原典を隅々まで味わうのは不可能に近い。もちろん、意識的に古典を親しむ習慣のある人なら何の問題もない。私のように、古典文学に興味があるけれど、原文のままではちょっと、、、という人がどうするか?当然のことながら、現代文に分かり易く翻訳されているものを読むということになるだろう。 『おちくぼ姫』は、田辺聖子によって『落窪物語』をある程度はしょって、おもしろいところをクローズアップした作品である。もともと『落窪物語』を原典で読もうとしたら四巻まであるのだから、あらましさえ知っておけばいいという場合はこのアンチョコ本で充分というわけだ。 田辺聖子は、現在の大阪樟蔭女子大学の国文科を卒業している。(まだ女子専門学校と呼ばれる時代。)代表作に『感傷旅行』や『ひねくれ一茶』などがあり、数多くの古典文学の翻訳を手掛けている。『おちくぼ姫』は、簡単に言ってしまえば、継子いじめの小説で、女性読者が大好きな純愛モノなのだ。 あらすじはこうだ。時代は平安朝。それはそれは見目麗しいお姫さまがいた。しかし、姫の実母は6歳の時に亡くなり、今は継母から酷くいじめられていた。異母妹たちは皆きれいな着物を着て、優雅に暮らしている中、一人だけ母の違う姫君は差別を受け、みすぼらしい部屋の、床が低く落ち窪んでいるところに住まわせられていたため、“おちくぼの君”と呼ばれていた。そんな中、乳姉妹であり召使の阿漕だけはおちくぼの姫の幸せをだれよりも願っていた。阿漕はどんなことがあってもおちくぼの姫から傍を離れず、よく仕えた。ある時、阿漕は夫の帯刀とともに、右近の少将という名門の出自で、しかも美青年の殿方を、おちくぼの姫と引き合わせようとあれこれ計画を練るのだった。 文庫本のあとがきにもあるように、この古典は「日本のシンデレラ物語」である。当時、上流階級の殿方は、妻を何人も囲うのが常識だったが、この物語では男の純愛を描くものであったため、女性読者から支持を受けたとのこと。西欧では『シンデレラ』や『白雪姫』などの純愛物語が燦然と輝く児童文学として存在するけれど、日本にも千年も昔にあったというのは驚きだ。単純と言ってしまえばそれまでだが、安心して読めるのが何より嬉しい。不幸な少女が様々な艱難辛苦を乗り越えて、ハッピーエンドで終うのはやはりホッとする。こういう定番スタイルがあってこそのラブ・ドラマだと、つくづく感じる古典名作なのだ。 『おちくぼ姫』田辺聖子・著☆次回(読書案内No.148)は姫野カオルコの「ハルカ・エイティ」を予定しています。★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから