吟遊映人 【創作室 Y】

2008/07/08(火)05:18

あなたになら言える秘密のこと

映画/ヒューマン(97)

「人は過去をどう背負えばいい? つらい結末を・・・“死”をどう受け入れる?」 「さぁ・・・(わからないわ)。前に進むしかないわ。皆どうにか未来に向かって生きてる。でも・・・挫折する人もいるわ。」 タイトルに踊らされて、何か淡いラブ・ロマンスを期待していた自分が恥ずかしい。 この作品は、もっとメンタルで人間の底知れぬ深淵を覗いてしまったような感覚に襲われる。 この世の地獄を見た人間に、憐憫の情など必要はなく、ただただ孤独の静寂がひと時の安らぎを与えるものなのか。 うわべだけの優しさや、思わせぶりの愛情表現なんて、つかの間の幻想に過ぎないことを知っている。 求めているのは、激しい感情のうねりにも負けないで、溺れずに泳ぐ術。 言葉少なく、ただ黙って抱きしめる純粋な愛だけが孤独な魂を救うのかもしれない。 イギリスの田舎町の工場で、日々黙々と働き続けるハンナ。 組合にも参加せず、同僚たちとも打ち解けないハンナを見かねて、上司は強制的に休暇を取らせる。 仕方なしに休暇を取ることになったものの、行くあてもなく、バスに乗って降り立ったのはさびれた港町。 ふらりと入った中華飯店で、男が携帯電話で何やら話し込んでいる。 それは急遽、看護師が必要だとの要請だった。 ハンナは深く考えもせず、看護師資格のあることを告げ、事故のあった油田掘削所へと同行するのであった。 母国の内戦によって治安が悪化した状況下で、ハンナは兵士たちから数十回にも及ぶレイプやリンチを受けた。 彼女はアーモンドの香りのする石鹸をいくつもリュックサックに詰め込んでいて、何かある度に執拗に手を洗う。 まるで、過去の消えようもない傷跡を洗い流そうとするかのような行為。 チキンとライスとリンゴしか食べなかったハンナが、ジョゼフの食べ残した食事を夢中になって食べるシーンは、人間の生きようとする本能を見た気がした。 大火傷を負い、角膜を損傷し視力を失った重傷患者ジョゼフとの出逢いは、真実の愛に枯渇する二人の止めどもない感情の高揚を予感させた。 ティム・ロビンスの迫真の演技に、思わず目頭が熱くなった。 2005年(西)、2007年(日)公開 【監督】イザベル・コイシェ 【出演】サラ・ポーリー、ティム・ロビンス また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。 See you next time !(^^)

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