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カテゴリ:読書案内
【枡野浩一/結婚失格】
◆ある日突然、離婚を突きつけられた夫の心境を激白 著者本人が「書評小説」というカテゴリを生み出し、小説でありながら実在する本の書評がくみ込まれているのは、斬新な発想だと思った。 さらに内容はほとんど私小説に近く、かろうじて登場人物の職業などを変えることにより、「これはあくまでも作り事」であるかのように見せかけている。 枡野浩一は、現代短歌の歌人であり、それこそが本業であるにもかかわらず、小説家としても見事な自己暴露を果たして成功している。そこには自己防衛や虚飾などは微塵も感じられず、あるがままのネガティヴ思考をきちんと肯定し受け入れているから、かえって潔く感じてしまう。 この作品は正しくタイトル通り、結婚そのものに向いていなかった、あるいは不適格者扱いを受けた自身を、自虐的に、だが決して納得はしていない男性の視点で率直に語った話である。 ある日突然、理由も分からず妻から離婚を突きつけられた夫の気持ち。 とりあえずお互いを冷静に見つめ直すために別居してみたところ、妻への連絡は全て弁護士経由となってしまった現実に唖然。 空腹なのに何も食べたくないから、みるみるうちに夫は痩せ細っていき、184cmという長身にもかかわらず、ピーク時には54kgまで体重が落ちてしまうというしまつ。 妻の雇った女性弁護士は、身に覚えのない非難を書きつらねたFAXを、人の出入りの激しい夫の仕事場へ平気で送りつけて来るという無神経さ。 愛する子どもたちとの面会も拒否され、夫側は事態をよく把握できないまま暗澹たる気持ちになる。 結局、夫は鬱の症状が出始め、精神のバランスを崩してしまう・・・。 著者がいくつか本の紹介をする中で、私も興味を持った一冊があった。それは松久淳の『ヤング晩年』というたぶんエッセイのようなものだと思うのだが、その抜粋に目を留めた。 〔たとえば演劇やってる友人、というものほど困ったものはないですけど、友だちだったら我慢してお金払ってその芝居を観に行って、あぜんとするほどつまらなくても「面白かったよ」と言ってあげるものです。それを「つまんねーよ」と正直に言ってあげることが愛情だなんてことを言う人がいますけど、当人にしてみれば友だち「にまで」そんなことは言われたくないに決まってるじゃありませんか。〕 これを引いて著者はハッキリと明確に、その考えは「ない」と答えている。 そこには、嘘なんかつけないと自分を肯定している自己愛が見え隠れするのだ。 おそらく著者は、漫画家である妻(作中では脚本家という設定になっている)に対して、おもしろいものとつまらないものを正しく伝えて来たに違いない。それが果たして正解だったかどうかは分からない。(結果、離婚にまで発展してしまったのだから、やはり嘘でも妻をおだててやるべきだったのだろう) 作品そのものはおもしろかったのに、一つだけ気になることがあった。 それは巻末にある解説が、徹底的に著者を非難する、驚くべき悪意に満ちたものだったことだ。 本来、解説は中立な立場で作者紹介をすべきであるのに・・・。こんな解説を掲載するのをあえて了承した枡野浩一の自虐ぶりにも驚きだが、それ以上に気分の悪くなる解説(というより批判)だった。 この本は、漠然と別れたがっている女性の皆さんにおすすめの一冊かもしれない。 離婚したい理由を相手にちゃんと伝えられないのは、もしかしたら単なる女性のワガママかもしれないのだから。 『結婚失格』枡野浩一・著 ☆次回(読書案内No.88)は佐伯一麦の『鉄塔家族』を予定しています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.08.24 05:44:07
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