ひろさちやさん、ありがとう 合掌。
現代の課題に応える仏教講義 [ ひろ さちや ]仏教作家のひろさちや(本名:増原良彦)さんが4月に亡くなっていたと最近知った。精神疾患に翻弄され長く通院していたとき、氏の著作、その語りにはたいへん癒された。正直なところ、医師が処方する薬よりもずっと効果があったと思っている。氏は大学で教鞭をとる傍ら、仏教思想に基づく著作を多く書き続け、そのなかで現代社会への鋭い批判や人の生き方へのアドバイスなども解説された。とくに、生きていくうえでの「価値転換」という部分を強く説かれ、この「価値転換」というのは哲学者ニーチェもその思想の根本にあったものだが、氏はこれを仏教思想に基づく形で平易に解説しておられた。その要諦は「此岸(人の世界)の価値」と「彼岸(仏の世界)の価値」の違いということであり、人の物差しではなく仏の物差しで価値をはかり生きていきましょうということなのだ。仏の物差しは伸び縮みする自在のものである。言い方を変えれば、物事の価値観に“絶対”はないということなのであり、いい意味で“なんでもあり”と。つまり「自灯明」だ。氏は仏教者だから仏教をツールとし「自灯明、法灯明」となるわけだが、そのツールは何であってもよいと思う。ありのままの自分を肯定し、その自分を拠り所として生きよと。それが酷い悪行などであっては困るのだが、「ダメな自分」という思いに煩わされているなら、それは単なる思い込みか他者のレッテル貼りかもしれず、いずれにしても此岸の(世間の)価値観によった無意味なものだと。氏の語りかけは、精神的窮地にあった私にとって大きな助けとなった。「自分を変えることはできなくても、自分の考え方を変えることはできる」と。やや大げさな言い方になるが、あの時の私には途切れかかった「命」に届いた一本の「蜘蛛の糸」ほどの価値があった。